磁気単極子
磁気単極子、磁気モノポール(英: magnetic monopole)とは単一の磁荷のみを持つもののことである。2015年現在に至るまで素粒子としては発見されておらず、現在では、宇宙のインフレーションの名残として生み出されたと仮定されるものの一つである。現在でも磁気単極子の素粒子を観測する試みがスーパーカミオカンデなどで続けられている。
目次
1 概要
2 陽子崩壊の触媒作用
3 発見、発明の試み
4 マクスウェルの方程式
5 SFにおける磁気単極子
6 外部リンク
7 出典
概要
棒磁石を切断しても、N極とS極のみを取り出すことはできない。
磁石にはN極、S極の二つの磁極が必ず存在し、この組み合わせを磁気双極子という。N極のみ、およびS極のみを持つ磁石、磁気単極子(モノポール)は2015年現在まで観測されていない。例えば両端がそれぞれN極とS極になっている棒磁石があったとして、これを真ん中で二つに折ったとしても、同じく両端がそれぞれN極とS極になっている棒磁石が二つできるだけの事であり、N極とS極のみを単純に取り出す事はできない。電磁石を考えれば、この事は容易に理解できる。電磁石は電流を流したコイルであり、これを二つに分割しても、巻き数が半分になった電磁石が二つ生まれるだけである。永久磁石についても、それを構成する物質の原子が電磁石と同じ働きをしているものであり、原理としては同じである。マクスウェルの方程式により代表される古典電磁気学はこの前提のもとに構成されている。
その一方で、電気については、プラスとマイナスの二つが存在し、これらは単独で取り出す事が可能である。これは電気の根元がプラスの陽子とマイナスの電子に由来しているからである。そして、古典電磁気学は電気と磁気の関係について対称であり、この関係を逆にする事が可能である。普通は、コイルを流れる電気によって磁力を発生する、言い換えれば円周上を周回する電子の運動によって磁界が生じる。これを、磁気単極子が円周上を周回する事によって電界が生じるというモデルに置き換える事ができるのである。つまり、マクスウエルの方程式は磁気単極子の存在を許すように容易に改変できる。さらに1931年にディラックは量子力学でも磁気単極子を考えることが可能であり、しかもそれが可能になるための条件から磁荷の最小単位が定まることを示して磁気単極子が一躍注目をあびた。
陽子崩壊の触媒作用
予想される大統一理論においては、クォークとレプトンは本来同じ粒子の異なった状態であり、インフレーションの際の相転移によって分化したとされ、相互に変換可能であるとされる。陽子内のクォークがレプトンに変化するとバリオン数を保持できなくなり陽子崩壊が発生する。しかし陽子の予想寿命が極めて長いことからもわかるようにクォークからレプトンへの変化は極めて低い確率でしか発生しない。だがモノポールはインフレーション以前のクォークとレプトンが分化する前の空間の位相欠陥であり、その中心部付近においてはクォークとレプトンは分化することができず、分化前の粒子に戻ってしまい、そこから通常空間に復帰した粒子はクォークにもレプトンにも変化する可能性がある。そのため陽子や中性子のクォークがモノポールの磁力で引き付けられ、中心部付近を通過してレプトンに変化すると陽子崩壊が発生する。モノポール自身は外部からのクォークを変換しただけで不変であるので、これを触媒に見立てることができる。これらの作用を予想した人物の名を取ってルバコフ効果と呼ぶ場合もある。
発見、発明の試み
スーパーカミオカンデでは大統一理論の証明の一環としてモノポールの探索をしている。
マクスウェルの方程式
ディラックによれば、マクスウェルの方程式は「磁気単極子の存在」により次のようになる。
- ∇⋅E=ρeε0displaystyle nabla cdot mathbf E =frac rho _evarepsilon _0
- ∇⋅H=ρmμ0displaystyle nabla cdot mathbf H =frac rho _mmu _0
- ∇×E+μ0∂H∂t=−Jmdisplaystyle nabla times mathbf E +mu _0frac partial mathbf H partial t=-mathbf J_m
- ∇×H−ε0∂E∂t=Jedisplaystyle nabla times mathbf H -varepsilon _0frac partial mathbf E partial t=mathbf J_e
あるいは電磁ポテンシャルを使えば次のようになる。(簡単のためローレンツゲージをとる)
- E=−∇ϕe−∂Ae∂t−1ε0∇×Amdisplaystyle mathbf E =-nabla phi _e-frac partial mathbf A_e partial t-frac 1varepsilon _0nabla times mathbf A_m
- H=−∇ϕm−∂Am∂t+1μ0∇×Aedisplaystyle mathbf H =-nabla phi _m-frac partial mathbf A_m partial t+frac 1mu _0nabla times mathbf A_e
- (∇2−1c2∂2∂t2)ϕe=−ρeε0displaystyle left(nabla ^2-frac 1c^2frac partial ^2partial t^2right)phi _e=-frac rho _evarepsilon _0
- (∇2−1c2∂2∂t2)ϕm=−ρmμ0displaystyle left(nabla ^2-frac 1c^2frac partial ^2partial t^2right)phi _m=-frac rho _mmu _0
- (∇2−1c2∂2∂t2)Ae=−μ0Jedisplaystyle left(nabla ^2-frac 1c^2frac partial ^2partial t^2right)mathbf A_e =-mu _0mathbf J_e
- (∇2−1c2∂2∂t2)Am=−ε0Jmdisplaystyle left(nabla ^2-frac 1c^2frac partial ^2partial t^2right)mathbf A_m =-varepsilon _0mathbf J_m
磁気単極子は陽子の 1016displaystyle 10^16 倍程度の質量を持ち、磁気単極子の磁荷 gdisplaystyle g
は次式で表される。
g=nhedisplaystyle g=frac nhe
ここで hdisplaystyle h はプランク定数、edisplaystyle e
は素電荷、ndisplaystyle n
は任意の整数である。またこの関係式を「ディラックの量子化」と呼ぶ。
このとき磁荷 gdisplaystyle g が電磁場から受ける力 Fdisplaystyle F
は
F=g(H−v×D)displaystyle boldsymbol mathit F=g(boldsymbol mathit H-boldsymbol mathit vtimes boldsymbol mathit D)
と書ける[1]。
SFにおける磁気単極子
SFに、磁気単極子を磁場の中に封じ込め振動させることによって燃料物質の陽子崩壊を誘発してエネルギー源として利用する、というアイデアがある。
重力理論の専門家ロバート・L・フォワードが『竜の卵』において、磁気単極子と原子核が結合した高密度の物質「モノポリウム」を登場させ、その重力場で中性子星の潮汐力から人間を守るというアイデアを詳細に描写している[2]。山本弘の小説『サイバーナイト』では、これとほぼ同じ原理であるとした動力源としたモノポール反応炉が、作中のテクノロジーを支えるエネルギー源とされている。さらに、ジャンプドライブ(ワープ)に必要な存在、という設定も同作中にはある。
他に、アニメ『宇宙戦艦ヤマト』シリーズのOVA『YAMATO2520』では動力源としてモノポールエンジンが、5pb.とニトロプラス製作の科学アドベンチャーゲーム『ROBOTICS;NOTES』では、「モノポール」(という名前の物体(?))が「空から落ちて」くる。特撮テレビ番組『ウルトラマンガイア』では、体内に磁気単極子N極を持つ「超巨大単極子生物 モキアン」が、地球内部のマントル流動を誘発させようとした。
外部リンク
- 磁荷のある電磁気学
- N極・S極だけをもつ磁石・磁気モノポールの発見(首都大学東京)
出典
^ P.A.M.ディラック 『ディラック現代物理学講義』 岡村浩訳、筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2008年2月(原著1978年)、192頁。.mw-parser-output cite.citationfont-style:inherit.mw-parser-output .citation qquotes:"""""""'""'".mw-parser-output .citation .cs1-lock-free abackground:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/65/Lock-green.svg/9px-Lock-green.svg.png")no-repeat;background-position:right .1em center.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration abackground:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg/9px-Lock-gray-alt-2.svg.png")no-repeat;background-position:right .1em center.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription abackground:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/aa/Lock-red-alt-2.svg/9px-Lock-red-alt-2.svg.png")no-repeat;background-position:right .1em center.mw-parser-output .cs1-subscription,.mw-parser-output .cs1-registrationcolor:#555.mw-parser-output .cs1-subscription span,.mw-parser-output .cs1-registration spanborder-bottom:1px dotted;cursor:help.mw-parser-output .cs1-ws-icon abackground:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4c/Wikisource-logo.svg/12px-Wikisource-logo.svg.png")no-repeat;background-position:right .1em center.mw-parser-output code.cs1-codecolor:inherit;background:inherit;border:inherit;padding:inherit.mw-parser-output .cs1-hidden-errordisplay:none;font-size:100%.mw-parser-output .cs1-visible-errorfont-size:100%.mw-parser-output .cs1-maintdisplay:none;color:#33aa33;margin-left:0.3em.mw-parser-output .cs1-subscription,.mw-parser-output .cs1-registration,.mw-parser-output .cs1-formatfont-size:95%.mw-parser-output .cs1-kern-left,.mw-parser-output .cs1-kern-wl-leftpadding-left:0.2em.mw-parser-output .cs1-kern-right,.mw-parser-output .cs1-kern-wl-rightpadding-right:0.2em
ISBN 978-4-480-09132-1。
^ ロバート・L・フォワード 『竜の卵』 山高昭訳、早川書房〈早川文庫SF〉、1982年6月(原著1980年)、62―65頁、388―395頁。
ISBN 4-15-010468-9。
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