高血圧
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高血圧 / 高血圧症 | |
---|---|
動脈性高血圧を示している自動血圧計(収縮期血圧(最高血圧)158mmHg、拡張期血圧(最低血圧)99mmHg、心拍数80bpmを表示している) | |
分類および外部参照情報 | |
診療科・ 学術分野 | 家庭医療 |
ICD-10 | I10,I11,I12, I13,I15 |
ICD-9-CM | 401.x |
OMIM | 145500 |
DiseasesDB | 6330 |
MedlinePlus | 000468 |
eMedicine | med/1106 |
Patient UK | 高血圧 |
MeSH | D006973 |
高血圧(こうけつあつ、Hypertension、高血圧症)とは、血圧が正常範囲を超えて高く維持されている状態である。高血圧自体の自覚症状は何もないことが多いが、虚血性心疾患、脳卒中、腎不全などの発症原因となるので臨床的には重大な状態である。
生活習慣病のひとつとされ、厚生労働省(2013年度)は男女共に通院者率の最も高い疾患として公表している(2位は男が糖尿病、女が腰痛)。
アメリカ合衆国では1995年に、成人全体の24%には高血圧があり、そのうちの53%の人は降圧剤を服用していた[1]。日本には4,000万人の高血圧の人がいると推定されている(日本高血圧学会)。肥満、脂質異常症、糖尿病との合併は「死の四重奏」「syndrome X」「インスリン抵抗性症候群」などと称されていた。これらは現在メタボリックシンドロームと呼ばれる。
目次
1 定義(診断)
1.1 基準の変遷と指摘
2 リスク分類
3 原因
4 分類
4.1 本態性高血圧症
4.2 二次性高血圧
5 高血圧の合併症
5.1 脳血管障害
5.2 心臓疾患
5.3 腎臓疾患
5.4 血管疾患
5.5 急性症状
5.6 代謝内分泌疾患
6 診断
7 管理・治療
7.1 食事療法
7.2 禁煙
7.3 生活習慣
7.4 薬物療法(降圧薬)
8 脚注
9 参考文献
10 関連項目
11 外部リンク
定義(診断)
日本高血圧学会では高血圧の基準を以下のように定めている。
分類 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 | |
---|---|---|---|
至適血圧 | < 120 | かつ | <80 |
正常血圧 | 120 - 129 | かつ | 80 - 84 |
正常高値血圧 | 130 - 139 | または | 85 - 89 |
Ⅰ度(軽症)高血圧 | 140 - 159 | または | 90 - 99 |
Ⅱ度(中等症)高血圧 | 160 - 179 | または | 100 - 109 |
Ⅲ度(重症)高血圧 | ≧ 180 | または | ≧110 |
収縮期高血圧 | ≧ 140 | かつ | <90 |
すなわち、収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上に保たれた状態が高血圧であるとされている。しかし、近年の研究では血圧は高ければ高いだけ合併症のリスクが高まるため、収縮期血圧で120mmHg未満が生体の血管にとって負担が少ない血圧レベルとされている。
ここで注意すべきは、血圧が高い状態が持続することが問題となるのであり、運動時や緊張した場合などの一過性の高血圧についての言及ではないということである。高血圧の診断基準は数回の測定の平均値を対象としている。運動や精神的な興奮で一過性に血圧が上がるのは生理的な反応であり、これは高血圧の概念とはまた違うものである。
血圧は1日の中でも変動している。そのため、計測する時間帯には正常値の基準を満たしているものの、その他のほとんどの時間帯には高血圧となっている場合がある。これを仮面高血圧と呼ぶ。また降圧剤が処方されている場合でも、その効果が切れている時間帯では安全域を外れている場合もある。この点にも留意する必要がある。逆に、普段は正常血圧なのに診察室で医師が測定すると血圧が上昇して、高血圧と診断されてしまう場合もあり、白衣高血圧と呼ばれる。
糖尿病患者では起立性低血圧の症例が有るため、座位だけでなく臥位・立位でも測定する。
上腕の血圧測定結果で左右の血圧差が生じることがある。血圧差は、上腕動脈或いは鎖骨下動脈の病変に起因すると考えられ、差が10mmHg以上の患者は心血管疾患による死亡リスクが有意に高い[2][3]。また、家庭で測定を行う場合は高い側の腕で測定を行うことが推奨されている[4]。
- 日本高血圧学会によれば「家庭血圧測定条件設定の指針」で、
- 測定部位:上腕が推奨。手首、指血圧計の使用は避ける。
- 朝の場合は、起床後1時間以内、排尿後、服薬前、朝食前の安静時、座位1 - 2分後に測定。
- 夜の場合は就床前の安静時、座位1 - 2分後に測定。
- 朝夜の、任意の期間の平均値と標準偏差によって評価。
- 家庭血圧は135/85 mmHg以上は治療対象、125/75 mmHg未満を正常血圧。
などとしている。
- 分類呼称について
- 従来の分類呼称では、軽症/中等症/重症としていたが、「軽症高血圧であってもリスクを層別化した際に高リスクと判定され、重症高血圧と同程度の治療を必要とする可能性が想定されている」事から、軽症をⅠ度/中等症をⅡ度/重症をⅢ度へと『高血圧治療ガイドライン2009』では変更している[5]。
基準の変遷と指摘
収縮期血圧の目標値は数回にわたり引き下げの変更が行われている。
- 1987年、180mmHg 以下
- 2004年、140mmHg 以下
- 2008年、130mmHg 以下
大櫛ら(2008)[6]によれば、血圧と死亡率を年令の関連をグラフにすると、120/80mmHg 未満での死亡率が有意に低くなり、一見すると「血圧は低ければ低いほどよい」様に見えるが、年令別にみると男女共に年令に関係なく 160/100mmHg 未満までは循環器系疾患死亡率が上昇しない[6]。一方、180/110mmHg 以上の人を 160/100 mmHg と強く下げた場合に死亡率が上昇する傾向がある[6]。また、高血圧症治療(降圧薬服用)は全ての世代でリスク要因であった[6]。更に、「基準値を年齢別・性別に設定すべきである」「160/100 mmHg 以下では健康リスクとならない」「薬物治療は 180/110 mmHg 以上を限定とし降圧は 20mmHg までとする」などの指摘を行っている[6]。
リスク分類
血圧以外のリスク要因を加味し下記のように層別化される。
分類 | Ⅰ度高血圧 140-159/90-99 | Ⅱ度高血圧 160-179/100-109 | Ⅲ度高血圧 ≧180/≧110 |
---|---|---|---|
リスク第一層 (予後影響因子なし) | 低リスク | 中等リスク | 高リスク |
リスク第二層 (糖尿病以外の 1 - 2個の危険因子、 3項目を満たすMetSのいずれかがある) | 中等リスク | 高リスク | 高リスク |
リスク第三層 (糖尿病、CKD、臓器障害/心血管病、 4項目を満たすMetS、 3個以上の危険因子のいずれかがある) | 高リスク | 高リスク | 高リスク |
※MetS(メタボリックシンドローム診断基準)
(1) 腹腔内脂肪蓄積 --- ウエスト周囲径 男性≧85 cm、女性≧90 cm (内臓脂肪面積 男女とも≧100 cm2に相当)、
(2) 脂質値 --- 高トリグリセライド血症(≧150 mg/dL)かつ/または低HDL-C血症(<40 mg/dL)男女とも、
(3) 血圧値 --- 収縮期血圧≧130mmHgかつ/または拡張期血圧≧85mmHg、
(4) 血糖値 --- 空腹時高血糖(≧100 mg/dL)またはHbA1c(NGSP)≧5.6%
上記(1)であることに加えて、(2)-(4)のうち2項目以上該当する場合にメタボリックシンドロームと診断される。
原因
現在、原因が特定できている場合とそうでない場合で大きく二分類して、原疾患が不明な「本態性高血圧症」と、特定の原因が明らかになっている「二次性高血圧」に分類するということが行われている。
現在の医学では、「本態性高血圧症」のほうの割合がかなり多い。つまり現在の医学のレベルでは高血圧に関しては原因があまりよく判っていない場合のほうが多い。ただしこの二分類は、あまり固定的に理解するのはあまり正しくなく、医師が仕事を進めるうえでの便宜的なものだと理解したほうがよい。[注 1]
アメリカ心臓協会に発表された論文によれば、ラットによる動物実験で腸内細菌叢における腸内毒素症 (Dysbiosis) との関連を示したと報告された[8][9]。アメリカ心臓協会は、抗生物質による高血圧治療を示した。
「二次性高血圧」(原因が特定されているもの)に関しては、いろいろな場合がある。[注 2]
本態性高血圧の原因については、原因のよく判らないものを「本態性高血圧症」と呼ぶことにしているので、良く判っていないとされているわけだが、「原因は単一ではなく、両親から受け継いだ遺伝的素因が、生まれてから成長し、高齢化するまでの食事、ストレスなどの様々な環境因子によって修飾されて高血圧が発生する」という説(モザイク説)がある。
- 動脈硬化症による脳内酸欠:一般的に病院で「高血圧」と診断される大部分の原因は、上行大動脈の動脈硬化症による脳内酸欠を防ぐための血圧上昇である。この動脈硬化症の原因をさらに遡ると食生活や喫煙や運動不足である場合が多い。
塩分の過剰摂取[10][11]:食塩の過剰摂取は、血圧の上昇を招き、心臓病や脳卒中のリスクを高める[12]アフリカのマサイ族や南太平洋のフィジーの人々など未開の地では、塩分摂取が少ないので、高血圧の人はほとんど見当たらない[13]。動物に食塩を多く含むエサを与えると高血圧になる。日本人の食塩摂取量は、欧米人より多い。日本人の高血圧の発生には食塩過剰摂取の関与が強いとされる。厚生労働省の栄養所要量によれば、食塩の必要量は1日1.5gであるが、日本人の食塩摂取量は1日平均11.2gである。
- 海と異なって陸上には食塩の摂取源が無いが、汗などで失うから、陸上動物は慢性的な食塩欠乏状態にある。陸上動物の体には、食物に含まれる食塩を大切に保持する仕組みがある。また、食塩を含む食物を美味しいと感じるように進化している。それで、多くの食塩を混入させた加工食品を好ましいと感じて、なかなか排除できないのである。
- 世界保健機構WHOは、高血圧のある人も無い人も、食塩摂取を5g/日以下にすることを強く推奨している。また米国国立健康研究所NIHは、51歳以上の人について、高血圧のある人も無い人も、食塩摂取を3.8g/日以下にすることを推奨している。日本の 高血圧治療ガイドライン2014 血圧治療ガイドラインでは、高血圧のある人に1日6g未満という減塩を推奨している。日本人の食塩嗜好は野菜の漬け物、梅干し、魚の塩漬けなど日本独自の食生活と関連がある。食塩摂取量に関して、静岡県浜松市遠州病院による2008年7月から2012年12月までに合計35,500人(男性22,749人 平均年齢56.3歳)を対象とした調査では、男性12.4g、女性8.4g で、ガイドラインの1日6.0g以下の推奨目標値を達成できているのはわずか3%であった[14]。また、食塩(塩化ナトリウム)だけでなく、重曹(炭酸水素ナトリウム)、アミノ酸等(グルタミン酸ナトリウム)[15] などを含む食品および胃腸薬の摂取に対しても注意喚起されている。
食塩の過剰摂取が高血圧の大きなリスクとなるのは、身体の電解質調節システムに原因がある。細胞外液中でナトリウムをはじめとする電解質の濃度は厳密に保たれており、この調節には腎臓が大きな役割を果たしている。すなわち、濃度が正常より高いと飲水行動が促され、腎では水分の再吸収が促進される。反対に、濃度が低い場合は腎で水分の排泄が進む。その結果として、血中のナトリウムが過剰の場合は、濃度を一定に保つため水分量もそれに相関して保持され、全体として細胞外液量が過剰(ハイパーボレミア:hypervolemia)となるのである。腎のナトリウム排泄能(通常、ナトリウム0.15-0.3mol/日[16]、食塩9-18g/日に相当)を超えて塩分を摂取している場合、上記のメカニズムで体液量が増加して高血圧を来す。ナトリウム過剰で高血圧をきたしやすい遺伝素因も存在することが確認されている。
- K(カリウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)は、ナトリウムに対して拮抗的に働く。それらの元素を多く含む野菜、果物、牛乳などを充分に摂取すると、体内の過剰なナトリウムは、体外へ排泄される(ダッシュダイエット参照)。
肥満、飲酒なども高血圧の発症に関与するとされる(これも概して食生活に起因するものである)。
ストレスも高血圧の発症に関与するとされる。- 血圧反射機能の障害なども高血圧の発症に関与するとされる。
- 両親の一方あるいは両方が高血圧であると高血圧を発症しやすい、というデータがあるが、遺伝性についての要因分析に関しては慎重になる必要がある。[注 3]
- 砂糖が高血圧の原因の一つであるという説がある。[17][18][19][20] 仮説の一つによれば、砂糖のうち特に果糖が、インスリン抵抗性をもたらし、血糖値を上げ、糖化反応により動脈硬化を起こし、高血圧をもたらす。実際、米国国立健康研究所NIHによる高血圧食であるダッシュダイエットでは、砂糖摂取を1日に約15グラム以下に制限するよう勧めている[21]。
- 睡眠不足が高血圧の原因の一つであるという説がある。睡眠時間が6時間と5時間のグループを比較すると、5時間のグループが高血圧になる割合が37%も高い[22]。
食塩感受性高血圧の病態については、諸説あるが、名古屋市立大学医学部の木村玄次郎の説では摂取したナトリウムを腎から排泄しきれず、夜間も腎臓でナトリウム排泄のため多くの血流を要するnon-dipper型高血圧(夜間高血圧)が良い説明モデルとなる。non-dipper型高血圧ではナトリウム排泄を促進する利尿剤を投与することでnon-dipper型がdipper型へと変化することが認められており、ナトリウム排泄が食塩感受性の有無を規定する因子のひとつと論じている[23]。
アンジオテンシンはポリペプチドの一種で、昇圧作用を持つ生理活性物質である。アンジオテンシンI〜IVの4種がある。うち、アンジオテンシンII〜IVは心臓収縮力を高め、細動脈を収縮させることで血圧を上昇させる。腎臓の傍糸球体細胞から分泌されるレニンの作用によって、アンジオテンシノーゲンからアミノ酸10残基から成るアンジオテンシンI が作り出され、これがアンジオテンシン変換酵素、キマーゼ、カテプシンGの働きによってC末端の2残基が切り離され、アンジオテンシンII に変換される。- アンジオテンシンIIはACE2により、血管拡張作用と抗増殖作用を有するヘプタペプチドであるアンジオテンシン-(1-7)へと変換される。
- アンジオテンシンI は昇圧作用を有さず、アンジオテンシンII が最も強い活性を持つ。(アンジオテンシンIII は II の4割程度の活性で、IV は更に低い)。
- アンジオテンシンII は副腎皮質にある受容体に結合すると、副腎皮質からのアルドステロンの合成・分泌が促進される。このアルドステロンの働きによって、腎集合管でのナトリウムの再吸収を促進し、これによって体液量が増加する事により、昇圧作用をもたらす[24]。また、脳下垂体に作用し利尿を抑えるホルモンである抗利尿ホルモンであるバソプレッシン(ADH)の分泌を促進し、水分の再吸収を促進することにより、昇圧作用をもたらす[25]。
脂肪細胞が肥大化すると、血圧に関連して次のことが起こる。
- 過剰に分泌されたレプチンが交感神経の活動を亢進させ、血管を収縮させること等により、血圧を上昇させる[26]。
レニン-アンジオテンシン系の活性化
アンジオテンシノーゲンは肝臓で産生されるが、肥大化脂肪細胞からも産生、分泌される。アンジオテンシノーゲンから生成されたアンジオテンシンⅡは、副腎皮質球状帯に作用してナトリウムの再吸収を促進するアルドステロンの分泌を促進し体内に水分を貯留する[27]。また、脳下垂体に作用し利尿を抑えるホルモンである抗利尿ホルモンであるバソプレッシン(ADH)の分泌を促進し同じく体内に水分を貯留する[28]。
これらのことにより高血圧を招く。肥満患者において高血圧症が多いのはこのためである[29]。
肥満によるインスリン抵抗性は高インスリン血症をきたす。高インスリン血症は、腎尿細管へ直接作用してナトリウム貯留を引き起こし、これが水分を貯留し結果として血糖値を下げる作用につながるが、水分の貯留により高血圧を発症させることとなる[30]。
分類
本態性高血圧症
本態性高血圧(原発性高血圧) 原因は単一ではなく、両親から受け継いだ遺伝素因に加えて、生後の成長過程、加齢プロセスにおける食事、ストレスなどの様々な生活習慣がモザイクのように複雑に絡みあって生じる病態(モザイク説)。高血圧患者の9割以上を占める。
食塩感受性高血圧は、遺伝的素因と食塩摂取過剰を兼ね持つもので、本態性高血圧の一部を占める。
二次性高血圧
二次性高血圧 明らかな原因疾患があって生じる高血圧をいい、以下のような疾患が原因となる。原因によっては外科手術などにより原疾患の治療を行えば完治する。
大動脈縮窄症 先天性疾患
腎血管性高血圧 腎動脈の狭窄があり、血流量の減った腎でレニンの分泌が亢進することで起きる。
腎実質性高血圧 腎糸球体の障害により起こる。
原発性アルドステロン症 (primary aldosteronism; PA) 副腎皮質の腫瘍からアルドステロンが過剰に分泌されるため起こる。
偽性アルドステロン症 グリチルリチン酸により、11-βHSD2活性が抑制され、コルチゾール代謝の阻害→コルチゾールの残存→ミネラルコルチコイド受容体刺激となる。
Apparent Mineralocorticoid Excess症候群(AME症候群) 11-βHSDの異常からおこる常染色体劣性遺伝疾患。
Liddle症候群 低カリウム血症、代謝性アルカローシスを来す常染色体優性の遺伝性高血圧症。Epethelial Sodium Channel; ENaCの異常から生じる。
クッシング症候群 副腎皮質の腫瘍からコルチゾールが過剰に分泌されるため起こる。
褐色細胞腫 副腎髄質や神経節の腫瘍からアドレナリンまたはノルアドレナリンが過剰に分泌されるため起こる
高安動脈炎 膠原病の一つ。
甲状腺機能異常 甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症
妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症より改名)。- 高カルシウム血症
この他、脳血管障害の急性期に著明な高血圧を来すことが知られている。脳出血では応急的な降圧が必要だが、脳梗塞では寧ろ脳血流を保てなくなる恐れがある為、降圧は行われない。
高血圧の合併症
高血圧が持続すると強い圧力の血流が動脈の内膜にずり応力を加えると同時に血管内皮から血管収縮物質が分泌されることで、血管内皮が障害される。この修復過程で粥腫(アテローム)が形成され、動脈硬化の原因となる。慢性的疾患は大きく 「脳血管障害」、「心臓疾患」、「腎臓疾患」、「血管疾患」の4つに分類され、高血圧によって生じる動脈硬化の結果、以下のような合併症が発生する。
脳血管障害
- 脳卒中
- 世界保健機構WHOは「脳卒中の62%は高血圧が原因である」と述べている[31]。脳卒中は、脳出血と脳梗塞およびクモ膜下出血に分類されるが、高血圧と関連が深いのは前2者である。脳出血は高血圧ともっとも関連するが、最近は降圧薬治療がうまく行われるようになったため、その頻度は減少してきている。一方、脳梗塞の頻度はむしろ増加し、その発症年齢も高齢化している。脳卒中の結果として片麻痺、失語症、認知症など寝たきりの原因となりやすい後遺症を残すため、社会的、経済的観点からも高血圧の予防はきわめて重要である。脳卒中の発症を予測する上では、収縮期血圧(Systolic Blood Pressure;SBP)が性や人種に関係なく、脈圧・拡張期血圧 (Diastolic Blood Pressure;DBP) などと比べ、最も重要な因子であるという論文が American Journal of Hypertensionの2007年3月号に掲載された。また日本人でも収縮期血圧のみが脳卒中および心筋梗塞の長期リスクの評価指標に適しているとの報告がなされた (Circulation. 2009;119:1892-1898)。
心臓疾患
- 虚血性心疾患
- 世界保健機構WHOは「冠動脈疾患の49%は高血圧が原因である」と述べている。[31]心筋梗塞や狭心症などの冠動脈の硬化によって心筋への血流が阻害されることで、心筋障害をきたす疾患群をいう。高血圧が虚血性心疾患の重大な危険因子であることは間違いがないが、高コレステロール血症、喫煙、糖尿病、肥満などの関与も大きい。最近は腹部内臓型肥満に合併した高血圧や高トリグリセライド血症、耐糖能異常などが冠動脈疾患のリスクであるとされ、メタボリック症候群として注目されている。欧米と比較すると、日本には脳卒中は多いが心筋梗塞は少ない。
心肥大、心不全- 高血圧が持続すると心臓の仕事量が増えて、心筋が肥大してくる。肥大した心筋はさらに高血圧の負荷によって拡張し、最終的には心不全に陥る。また肥大した心筋では冠動脈からの血流も減少するために、虚血に陥りやすく、不整脈、虚血性心疾患の大きなリスクとなる。
腎臓疾患
- 腎障害
腎臓の糸球体は細動脈の束になったものであり、高血圧によって傷害される。また、糸球体高血圧がレニン-アンギオテンシン系を賦活するためさらに血圧を上昇させる。糸球体は廃絶すると再生しないため、糸球体障害は残存糸球体への負荷をさらに強めることとなる。最終的には腎不全となり人工透析を受けなければならず、やはり社会的、経済的な負担は大きく、その進展予防は重要である。
血管疾患
- 動脈瘤
- 胸部や腹部の大動脈の壁の一部が動脈硬化性変化によって薄くなり、膨隆した状態を大動脈瘤という。内径が5cm以上になると破裂する可能性が高くなるので、手術適応となる。また血管壁の中膜が裂けて、裂け目に血流が入り込み、大血管が膨隆する状態を;解離性大動脈瘤 といい、生命を脅かす危険な状態である。
- 閉塞性動脈硬化症
- 主に下肢の動脈が、動脈硬化によって著しく狭小化するか、あるいは完全に閉塞した状態をいう。数十メートル歩くとふくらはぎが痛くなり、立ち止まると回復する場合には、この疾患を疑う。
- 眼障害
高血圧性網膜症や、網膜動脈・網膜静脈の閉塞症、視神経症など様々な眼障害を合併する。
急性症状
- 高血圧緊急症
- 慢性的な影響とは別に、急激な高血圧により脳圧が亢進し頭痛・視力障害などの急性症状を引き起こした状態は高血圧緊急症、または高血圧脳症と呼ばれる。治療として降圧薬および脳圧降下薬が投与される。
- 血圧降下により症状が消失することにより診断される。
- 食後低血圧
- 腸が食物消化をするためには多くの血流が必要になる。そのため腸に大量の血液が集まると、腸以外の血圧は低下していくが、血圧維持のために自律的に「心拍増」、「他の部位の血管収縮」など作用により血圧を上昇させる。しかし、後述の起こしやすい人や血圧降下薬剤を服用している場合、血流は正常に腸へ集まるが薬剤の効果により血圧上昇が抑制され、結果的に低血圧の症状としてめまいが発生することがある。血圧低下は一時的な物で、血流の腸への集中が解消されると低血圧症状も解消する[32]。高血圧な人、高齢者や自律神経系を管理する脳部位に障害を有する人(パーキンソン病、多系統萎縮症、糖尿病)は起こしやすい。
代謝内分泌疾患
- 高尿酸血症
- 国立病院機構九州医療センターの研究によると、閾値を男性で尿酸値7.0mg/dL以上、女性で6.2mg/dL以上としたとき高血圧症患者が高尿酸血症を合併症とする率は男性 34.1%、女性 16.0%で認められ、約9割は排泄低下型の高尿酸血症であった[33]。
診断
血圧は変動しやすいので、高血圧の診断は少なくとも2回以上の異なる機会における血圧測定値に基づいて行われるべきである。最近は家庭血圧計が普及しているが、家庭で自分自身で測定した血圧値の方が、診察室で医師や看護師によって測定した血圧値よりも将来の脳卒中や心筋梗塞の予測に有用であるとする疫学調査結果が相次いで報告されている。診察室での血圧測定では、白衣高血圧(医師による測定では本来の血圧より高くなる現象)や仮面高血圧(普段は高血圧なのに、診察室では正常血圧となる現象)が生じるため、必ずしも本来の血圧値を反映していないという考え方が普及している。家庭での正常血圧値は診察室での血圧値よりもやや低いために、家庭血圧では135/85mmHg以上を高血圧とする。家庭では朝食前に2回血圧を測定することが望ましい。心筋梗塞や脳卒中の発症は朝起床後に多発することから、早朝の高血圧管理が重要である。
脳卒中や心筋梗塞の発症には高血圧のみならず、喫煙、高脂血症、糖尿病、肥満などの他の危険因子も関与するために、危険因子や合併症も考慮した高血圧の層別化によって将来の脳卒中、心筋梗塞の危険度の予測能が高まる。
動脈硬化の診断や、腎機能、血圧反射機能などの自律神経機能等の診断も病態の把握に重要であり、動脈硬化の定量診断には脈波伝播速度計測なども行われている。血圧反射機能診断のためには、血圧変化に対する心拍反応や、動脈の血圧反射機能を診断する方法論も提案されている。精密な病態の診断が最適な治療には不可欠である。
臨床的には心臓超音波検査(心エコー)において、心重量の増大や左室肥大が観察される[34]。
管理・治療
高血圧治療ガイドラインに定められた期間の食事療法や運動療法を行い、それでも140/90mmHgを超えている場合は降圧薬による薬物治療を開始する。
食事療法
- 食塩制限(ナトリウム制限)
- 減塩1g/日ごとに収縮期血圧が約1mmHg減少するとの報告があり、原因によらず、ほぼ全ての高血圧患者で塩分(塩化ナトリウム)摂取制限は必須である。2006年の米国心臓協会(AHA)の勧告による食塩換算値の理想的な摂取量は3.8g/日以下とされているが、日本では目標値として6g/日以下が用いられている。日本の国民栄養調査によれば、「塩分制限をしている」と答えた人は、平均1.6gの食塩を減らしているに過ぎず、日本では多くの高血圧患者が、6g/日未満の目標値を達成できていない。欧米の介入試験の成績をみると、少なくとも6.5g/日まで食塩摂取量を落とさなければ有意の降圧は達成できない[7]。
- 食品の含有量が食塩(塩化ナトリウム:NaCl)でなくナトリウム (Na) の表示の場合は、2.5倍して塩化ナトリウムに換算する。健康ブームに乗って「この天然塩はミネラル豊富なため多く摂っても高血圧にならない」などの宣伝が散見されるが、このような文言をうのみにすることは危険である。上記メカニズムにより、問題は塩の質ではなくナトリウムの量である。また、炭酸水素ナトリウム(重曹)やグルタミン酸ナトリウム(アミノ酸等)もナトリウム源となる。調味料として塩分をほとんど摂取しないヤノマミ族には高血圧を発症するものはおらず、健康に生活している[35]ことから、日常生活で醤油・味噌を用いる日本では調味料としての食塩の摂取下限はないと考えられている。摂取する食塩の多く(77%)は、加工食品やレストランの食事に含まれる食塩である[36]。なお、高血圧患者において、減塩療法だけで血圧を正常化できるのは、全患者の30%から40%とする報告がある[37]。科学的研究が一貫して明らかにしているのは、食塩摂取を適度に減らすと、全ての年齢集団や民族集団において、高血圧の人でも正常血圧の人でも、程度の差はあっても、血圧が低下することである[38]。
- 多数の人口を対象にした大規模な研究により判明しているのは、生活習慣の改善を行って、わずかな降圧しか達成されなかった場合でも、長い経過の中では、心血管系の病気のリスクを減らしていることである[39]。英国の CASH(食塩と健康に関する合意形成運動)は、摂取食塩を1日に1gずつ減らすことができれば、英国全体では脳卒中と心筋梗塞を1年に1万3000件減らすことができると推定している[40]。また、ある研究者は、米国において1日に3gの食塩を減らすことができれば、脳卒中を年に3万2000件〜6万6000件、心筋梗塞を年に5万4000件〜9万9000件減らすことができると推定してる[41]。
- 減塩には、あらゆる関係者の努力が必要である。とくに、消費者自身が意図的に食塩を減らすこと、食品産業が加工食品中の食塩を減らすこと、一般向けに減塩のキャンペーンを行うことが重要である。[38] フィンランド、英国、米国では、食品産業の協力を得て、減塩プログラムを実施し、意図的に食塩を減らすことに成功している。[38] 例えば英国では、最近、食品中の食塩を20%〜30%減らすことに成功した。減塩は、欧米諸国の政府の重要な政策課題となっており[38][42]、最近の日本における減塩の取り組みは、国際的に見て相当に遅れている[43]。
- なお摂取食塩量の推定には、食べた食事から計算する方法[44]、24時間の蓄尿を検査する方法、随時尿のクレアチニン値から推定する方法[45] がある。
- カリウム摂取
- 血圧上昇を抑制する作用があり[46]、早朝スポット尿検査からもカリウム摂取は重要と考えられている[47]。カリウム摂取量が多い成人ほど収縮期および拡張期血圧が有意に低く、脳卒中リスクも低いことが報告されている[48]。2012年WHO は、カリウム摂取のガイドラインを初めて発表し、推奨摂取量を90mmol/日(3519mg)以上とした[48]。(カリウム 1mmol = 39.1mg)
腎臓に障害がなくカリウムを摂取しても問題がなければ、カリウムを豊富に含む野菜や果物や豆の摂取を増やすことによる降圧が期待できる[49]。- マグネシウム、カルシウムにも、カリウムと同様の作用がある。
- 飲酒の制限(節酒)
酒の摂取では一時的な血管拡張により降圧するが、飲酒習慣は血圧を上昇させることはよく知られている。毎日の飲酒習慣は 10歳の加齢に相当する血圧値を示す[50]。降圧効果は1 - 2週間以内に現れる。大量飲酒者は急に飲酒の制限を行うと血圧上昇をすことがあるが、飲酒制限の継続により数日後から血圧は下がる。- エタノール換算量は、男性が20 - 30ml/日(日本酒換算1合前後)、女性が10 - 20ml/日、これ以下にするべきである[50]。
- ダッシュダイエット
- 米国政府は、高血圧を治療する食事療法としてダッシュダイエットを勧めている。野菜、果物、低脂肪乳を多く摂って、砂糖を減らすダイエットである。ある研究者が、降圧の効果を、減塩、運動、減量、節酒、ダッシュダイエット、で比較したところ、降圧が最も大きかったのは、ダッシュダイエットであった[7]。米国心臓病協会AHAもダッシュダイエットを推奨している。
禁煙
喫煙など動脈硬化を促進する生活習慣も断つ必要がある。喫煙はβ遮断薬の降圧効果を減じる作用がある[51]。
生活習慣
- 疫学研究から寒冷が血圧を上げることが示され、季節では冬季に血圧が高い。高血圧患者では冬季の寒冷刺激を緩和するために、トイレや浴室などの暖房も望まれる。入浴は熱すぎる風呂、冷水浴、サウナは避けるべきである。便秘に伴う排便時のいきみは、血圧を上昇させるので避ける。
- 夕食後から就寝までの時間が2時間未満の集団と、3〜4時間空けた集団のロジスティック回帰分析を行った結果、3〜4時間空けると高血圧の予防につながる可能性が示唆された[52]。
- 運動により拡張期血圧4-8mmHgの降圧が認められている[53]。
- 有酸素運動が推奨されてきたが、木津直昭、稲島司らは、歩行速度との関連が指摘され速く歩くことが効果的と主張している[54]。
薬物療法(降圧薬)
近年は大規模臨床試験がいくつも出そろい、高血圧治療指針(ガイドライン)では科学的根拠に基づいた降圧薬の選択を推奨している。
日本では依然として主治医の裁量ではある。
- Ca受容体拮抗薬は副作用が少なく血圧を大きく下げるため、多くの場合で有用である。エビデンスが豊富で、危険因子として特に比重の高い脳出血は、同剤の開発前後で明らかに減少している。虚血性心疾患においても、日本人では冠攣縮型狭心症の関与が大きく、Ca受容体拮抗薬が有効である。
- 降圧利尿薬は廉価であるが、耐糖能の悪化や尿酸値上昇、低カリウム血症といった副作用により、敬遠する医師が多かった。しかし多くの臨床試験によってACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬などの最近の高価な降圧薬と同等か、それ以上の脳卒中、心筋梗塞予防、心不全改善、腎保護効果が明らかになっており、最近見直され処方する医師が増えている(例:インダパミドの項参照)。
- 日本の医療は国民皆保険でありコストを考える必要はあまりないため、たとえリスクの低い患者であっても最初から高価で切れ味の良いACE阻害薬やAII拮抗薬から始めても良いが、降圧利尿薬の選択をいつも考慮する。
- なにもリスクがない患者では、コストが安い利尿薬やカルシウム拮抗薬を第一選択とする。60歳未満ではACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬なども用いられる。
- 降圧利尿薬は古典的な降圧薬であるが、低カリウム血症、耐糖能悪化、尿酸値上昇などの副作用にもかかわらず、最近の大規模臨床試験の結果では、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、Ca拮抗薬などの新しい世代の降圧薬に劣らない脳卒中、心筋梗塞予防効果が証明されており、米国では第一選択薬として強く推奨されている。降圧利尿薬は痛風の患者には使用するべきではない。また緑内障の発症を著しく促すことも最近明らかになっている。
糖尿病や腎障害の患者では、ACE阻害薬またはAII拮抗薬を第一選択とするが、これらの合併症がある場合には、130/80mmHg未満の一層厳格な降圧が必要とされるために長時間作用型Ca拮抗薬の併用も不可欠である。腎障害が高度な場合にはACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬は用いることができない。
心不全の患者では、ループ利尿薬に加えて、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬の併用が有効である。最近βブロッカーの少量追加、K+保持性利尿薬も有効であるとのエビデンスも蓄積されている。
虚血性心疾患の患者では、従来はβブロッカーが第一選択であったが、最近はACE阻害薬またはAII拮抗薬や長時間作用型Ca受容体拮抗薬の有用性も証明されている。特に、冠動脈のれん縮による狭心症合併例では長時間作用型Ca拮抗薬が有効である。- 高齢者高血圧に関して、以前は根拠がないままに積極的な降圧は必要がないとされていたために、2000年版の日本の高血圧治療ガイドラインでも高齢者では高めの降圧目標値が設定されてきた。しかし最近の大規模臨床試験では、年齢に関わりなく積極的な降圧が必要であることを明らかにしており(HYVET studyなど)、欧米の高血圧治療ガイドラインでは年齢による降圧目標値の設定は行っていない。また日本の高血圧治療ガイドラインも、2004年版では高齢者高血圧も140/90mmHg未満までの降圧が必要であるというように変更された。
- 慢性腎臓病を合併した高血圧の治療については、2008年に日本腎臓学会・日本高血圧学会から共同でガイドラインが発表された。第1選択はレニン-アンジオテンシン系抑制薬とされ、第2選択は利尿薬またはCa拮抗薬、第3選択はCa拮抗薬または利尿薬とされている。[55]
- 妊婦に対しては、多くの降圧薬に催奇形性があるか、ある恐れがあり、ヒドララジン、αメチルドーパのみを使用する。
αブロッカーは、基本的に推奨されないが、前立腺肥大症を合併している患者などでは有用かもしれない。しかし、αブロッカーは最近の大規模臨床試験では最も古典的な降圧薬である降圧利尿薬よりも脳卒中や心不全予防効果が劣ることが明らかになり[56]、最近の欧米の治療ガイドラインでは第一選択薬から外されている。
脚注
- 注
^ 病気の実体論によって分類しているのではなく、医師が仕事を進めるうえでの便宜上の分類である。あくまで医師によって原因が特定できたかできなかったかという、医師側の状態によって分けているものであって、病気の実態論で二分類しているわけではない。ある医師にとっては「原因が特定できない」(=本態性高血圧症)とされていて「本態性高血圧症」とされた症状が、別の能力が高い医師が診断したら原因が特定できて「二次性高血圧」に分類することもありうるし、また、長期的に見て、検査方法の変化や、医学会の判断の変化等々によって、見直されることもありうる。
^
若年者の場合は原因が特定できる場合も多い。医師の言葉では「若年者高血圧症では二次性高血圧症が高頻度に存在する」などと表現する。
患者の年齢が上がるにつれて「二次性高血圧」の割合が減り、その分「本態性高血圧症」の割合が増える。(つまり、年齢を重ねるにつれ、人の身体には様々な要因が重なっていて様々なことが複合的に起きるので、あまりにややこしくなって、医学的に何が本当の原因なのかうまく特定しきれない割合が増えるのである。)
二次性高血圧症については「〜性高血圧症」と名付けられることが多いが、たとえば「A性高血圧症」という表現であれば、Aが高血圧の原因だと判断された高血圧、という意味である。
例えば、「副腎性高血圧症」は、副腎に問題があることが原因だと判断された高血圧、という意味の表現である。したがって原因についての分析が変更されると、名称が変更されることがある。
「二次性高血圧」(=原因が特定できている高血圧)には、副腎性高血圧症、腎血管性高血圧症、腎実質性高血圧、等々がある。褐色細胞腫、クッシング症候群が原因となって高血圧になることもある。
^ ひとつのケースは、食習慣であり、人の味の好みは家庭の味の影響を受けるので、片方の親が塩味の濃いものを好むと結果として子供は濃い味に触れる機会が増え、塩分が強いほうに誘導される。薄味、濃い味の両方が食卓に並ぶことがある場合でも、概してどちらかと言えば濃い味のほうに誘導される傾向がある。結局、両親のどちらかが塩味の濃い味を好むと、子供まで塩味の濃い料理を選ぶ習慣がついてしまうことが多く、その結果どちらかの親が高血圧だと子まで高血圧になっているケース。この場合は、親の高血圧は本当の因子ではなく、どちらもともに高血圧は「結果」であり、本当の原因は《塩分のとりすぎ》や《生野菜不足》である。この場合は食習慣を改善することで結果は変えられる。もうひとつのケースは、遺伝的なもので親から受け継いだ遺伝子が影響している場合である。
長野県では長年に渡り代々血圧が高い人が多く脳卒中も多く死亡率も全国平均と比較して高かったが、1981年から医師などの呼びかけによって食習慣を改善する運動を県民をあげてやったところ、わずか一世代のうちに長寿日本一になった。“食”を通じた健康寿命の延伸 平成29年度政策研究 上小気流(上田)研究報告書 (PDF)
つまり症状のデータ的としては、親から子へと固定的に引き継がれていても、大きな原因は 実は遺伝ではなく、食習慣であったわけである。日本人全般は「しょうゆ」や「漬物」によって塩分のとりすぎの傾向があり、にもかかわらずそれを自覚しておらず、自己申告形式で塩分摂取量を報告させてもしょうゆの使用量などまではきちんとカウントしては報告されず漏れてしまい、通常の調査では塩分摂取量の因子としての大きさを正確に因子分析しようとしても非常に困難である。長野県のように大規模に食生活の改善の運動をした結果、統計的にはっきりと表れて、はじめてその影響の大きさが判ることになる。
以前の長野県で高血圧で病院を訪れる患者でも、医師が病院にやって来る患者だけを見て判断していると医師は「原因は不明」と感じ「本態性高血圧」に分類してしまう傾向があるわけだが、患者の生活の場、患者たちが生活の場でどのようなものを実際に食べているか、というところまでじっくり観察すれば、判断・診断は変わる可能性があるわけである。患者や地域住民の生活の中の場まで入っていって、そこで食べられているもの、地域の伝統食の実態・加工方法・調味方法を確認したり、食べ物の味を医師が自身の舌で確認したり塩分計で確認したりすれば、(その地域の人々は独特の習慣におぼれてしまっていて気づいていなくても)第三者的には実は、「原因は明明白白だ」ということもあるわけである。こうして「原因は塩分過多だ」とか「原因は野菜不足だ」と特定できれば、それはもはや単なる「本態性高血圧」ではなくなる。長野県の場合は、そうしたことに気付く医師がいて(来てくれて)、行政まで巻き込んで、食生活改善のための大きな運動を展開してくれたおかげで状況を変えられたわけである。
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参考文献
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高血圧治療ガイドライン2014 電子版 日本高血圧学会
関連項目
- 低血圧
- 循環器科学
世界高血圧デー(5月17日)
外部リンク
- 日本高血圧学会|The Japanese Society of Hypertension
- 日本妊娠高血圧学会
高血圧 メルクマニュアル家庭版
高血圧 厚生労働省
Your Guide to Lowering Blood Pressure 米国厚生省 (英語)
Primary Prevention of Hypertension 米国厚生省 (英語)
A global brief on Hypertension 世界保健機構WHO、2013年 (英語)
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