トウモロコシ



トウモロコシ

VegCorn.jpg
トウモロコシ


分類
























:

植物界 Plantae
階級なし
:

被子植物 angiosperms
階級なし
:

単子葉類 monocots


:

イネ目 Poales


:

イネ科 Poaceae


:

トウモロコシ属 Zea


:

トウモロコシ Z. mays

学名

Zea mays L.
英名

米: corn、英: maize



Zea mays "fraise"





Zea mays "Oaxacan Green"





Zea mays 'Ottofile giallo Tortonese'


トウモロコシ(玉蜀黍、学名 Zea mays)は、イネ科の一年生植物。穀物として人間の食料や家畜の飼料となるほか、デンプン(コーンスターチ)や油、バイオエタノールの原料としても重要で、年間世界生産量は2009年に8億1700万トンに達する。世界三大穀物の一つ。


日本語では地方により様々な呼び名があり、トウキビまたはトーキビ(唐黍)ナンバトウミギ、などと呼ぶ地域もある(詳しくは後述)。


コーン (corn) ともいう。英語圏ではこの語は本来穀物全般を指したが、現在の北米・オーストラリアなどの多くの国では、特に断らなければトウモロコシを指す。ただし、イギリスではトウモロコシを メイズmaize)と呼び、穀物全般を指して コーンcorn)と呼ぶのが普通である。




目次





  • 1 植物の特徴


  • 2 品種分類


  • 3 歴史

    • 3.1 起源


    • 3.2 新世界(南北アメリカ大陸)内での伝播


    • 3.3 旧世界への伝播


    • 3.4 コロンブス以前のトウモロコシ


    • 3.5 日本への伝播



  • 4 生産と流通


  • 5 消費


  • 6 用途

    • 6.1 食用


    • 6.2 食用外

      • 6.2.1 果実(種子・胚芽)


      • 6.2.2


      • 6.2.3 茎・葉


      • 6.2.4 花柱




  • 7 名称


  • 8 脚注

    • 8.1 注釈


    • 8.2 出典



  • 9 参考文献


  • 10 関連資料


  • 11 関連項目


  • 12 外部リンク




植物の特徴




雄花は茎の先端にススキ状に生じる




雌花(穂)は茎の中ほどにたくさんつく


イネ科の一年草で、イネ科としては幅の広い葉をつける。一生のうちに付く葉の数や背丈は品種によってほぼ決まっており、早生品種ほど背丈は低く葉の数も少ない[1]
熱帯起源のため、薄い二酸化炭素を濃縮する為のC4回路をもつC4型光合成植物である。多日照でやや高温の環境を好む。大型の作物であるため、育成期間中を通して10アールあたり350 - 500トンの水を必要とする[1]


発芽から3ヶ月程度で雄花(雄小穂)と雌花(雌小穂)が別々に生じる。雄小穂は茎の先端から葉より高く伸び出し、ススキの穂のような姿になる。雌小穂は分枝しない太い軸に一面につき、包葉に包まれて顔を出さず、絹糸と呼ばれる長い雌しべだけが束になって包葉の先から顔を出す。トウモロコシのひげはこの雌しべにあたる。


花粉は風媒され、受粉すると雌花の付け根が膨らみ可食部が形成される。イネ科では珍しく、種子(果実)が熟すと穎の中から顔を出す。種子の色は黄・白・赤茶・紫・青・濃青など。


旬は夏で、日本では6 - 9月頃に出荷され、特に7月頃に多く出回る。



品種分類


トウモロコシは長い栽培の歴史の中で用途に合わせた種々の栽培品種が開発されている。雑種強勢(異なる品種同士を交配すると、その子供の生育が盛んとなる交配の組み合わせ)を利用したハイブリッド品種が1920年頃からアメリカで開発され、以後収量が飛躍的に増加した。また、近年では遺伝子組換えされた栽培品種も広がりつつある。


一般にトウモロコシの分類に用いられるのは、粒内のデンプンの構造によって種を決める粒質区分である[1]。種によって用途や栽培方法に違いがある。


甘味種(スイートコーン)(Z.m.L.var.saccharata)

食用の品種。茹でる、焼く(焼きトウモロコシ)、蒸すなどの調理方法がある。

加工食品用の材料でもあり、例えばコーンフレークやコーンミールなどの材料にもなる。種子に含まれる糖分が多く強い甘味を感じるが、収穫後の変質や呼吸による消耗が激しく、夏季の室温中では数時間で食味が落ちる。対策は低温管理の徹底か、収穫後すぐに加熱して呼吸を止めるなどである。
ベビーコーン(ヤングコーン)

生食用甘味種の2番目雌穂を若どりして茹でたもの、サラダや煮込み料理などに用いられる。



甘味黄色粒種

実が黄色の甘味が多い品種。

味来(みらい)

1990年代から出回った生食可能な品種の先駆け、平均糖度12度。

サニーショコラ

糖度15度以上、生食可能。

ゴールドラッシュ

実が柔らかく、糖度の高い品種。生食可能。

ミエルコーン

粒の皮が薄く、糖度の高い品種。生食可能。ミエルとは、フランス語で「はちみつのような甘さ」という意味を表している。

ピクニックコーン

味来の改良型で平均糖度が18度以上と高く、小振りな品種。生食可能。種苗会社では、火を通した後に冷やすことにより甘みが増加されることをPRし、火を通した後冷たくして食べることを推奨している[2]



甘味バイカラー粒種

実が白、黄色系など色が混ざった混合品種。
ハニーバンタム

アメリカより伝来、日本で初めに食された品種。その後、品種改良により「ピーターコーン」が登場して以来、生産が減少し市場流通より姿を消しつつある。

ピーターコーン

粒皮がやわらかく、糖度の高い品種。ハニーバンタムより軟らかく甘味がある。

ゆめのコーン

実が柔らかく糖度の高い品種。生食可能。

カクテルコーン

黄・白粒が混ざり(カクテル)、実が柔らかく糖度の高い品種。生食可能。

甘々娘(かんかんむすめ)

糖度が高く、生でも食べられる品種。時間経過による糖度の低下が遅い。しかし発芽率が低く、栽培の難しい品種でもある。



甘味白色粒種

実が白色で甘味が多い品種。
ピュアホワイト

白いとうもろこし(とうきび)や幻のとうもろこし(とうきび)とも呼ばれ、平均糖度17度以上とも謳われている。生食も可能だが火を通すと甘味黄色・バイカラー種に比べると食味はやや劣る。

雪の妖精

ピュアホワイトの進化型。平均糖度17度で生食も可能。

ホワイトショコラ

ピュアホワイトの進化型。平均糖度17度で生食も可能。


以上に示されているのは色や食味による分類であるが、それらに関わる遺伝子については多くが特定されている。甘味に関わる遺伝子ではsu遺伝子・se遺伝子・sh2遺伝子などが特に重要で、それらの組み合わせによってはスイート種・スーパースイート種・ウルトラスーパースイート種などのタイプがある。遺伝子の組み合わせによって、糖の含有量や糖の種類(風味)の違いが生まれる。スイート種は缶詰などの加工用で、青果として流通することはほとんどない。青果としてはスーパースイート種やウルトラスーパースイート種などであるがウルトラスーパースイート種では甘すぎると感じる人もいる。


爆裂種(ポップコーン)(Z.m.L.var.everta)


菓子のポップコーンを作るのに使用する。

馬歯種(デントコーン)(Z.m.L.var.indentata)

通常食用にはしない。主に家畜用飼料やデンプン(コーンスターチ)の原料として使用。

硬粒種(フリントコーン)(Z.m.L.var.indurata)

食用・家畜用飼料・工業用原料に主に使用される。

糯種(ワキシーコーン)(Z.m.L.var.seratina)

完熟種子表面がワックスしたようにツルツルしているので、この名が付けられた。デンプンがもち性を示すため、もち米の代替品として、加工原料に使われる[3]

軟粒種(ソフトコーン、スターチ・スイートコーン)(Z.m.L.var.amyrae-saccharata)

子実が軟質澱粉により形成されている。

ポッドコーン(Z.m.L.var.tunica)

粒がひとつずつ頴に包まれている。

ジャイアントコーン



種子が大きいのが特徴。


歴史



起源




紀元300年ごろの南米モチェ文化の黄金のトウモロコシ像。ペルー、リマのLarco博物館蔵





センテオトル。アステカ文明におけるトウモロコシの神


現在最も支持されているのはテオシント起源説[4]で、遺伝子解析などの結果から裏付けられている[5]。トリプサクム属を起源とする説はマイクロサテライト解析の結果、否定されている[5]。また、テオシントとトウモロコシの分岐年代は約9200年前とされている[5]


かつて起源を争った説としては、



  1. メキシコからグアテマラにかけての地域に自生しているテオシント(teosinte[注釈 1]、トウモロコシの亜種とされる Zea mays mexicana または Euchlaena mexicana、和名ブタモロコシ)が起源だとする説。ただし、テオシントは食用にならない小さな実が10個程度実るのみで、外見もトウモロコシとは明らかに違う。

  2. 2つの種を交配させて作り出されたとする説。祖先の候補としては、絶滅した祖先野生種とトリプサクム属 (Tripsacum)、トリプサクム属とテオシントなどがある。

紀元前5000年ごろまでには大規模に栽培されるようになり、南北アメリカ大陸の主要農産物となっていた(ただし、キャッサバを主食としたアマゾンを除く)。新大陸においてはアマランサスやキノアなどの雑穀を除くと唯一の主穀たりうる穀物であり、マヤ文明やアステカ文明においてもトウモロコシが大規模に栽培され、両文明の根幹を成していた。南アメリカのアンデス山脈地域においてはジャガイモを中心とした芋類が主食作物として枢要を占めてきたが、トウモロコシも重要な作物であり、特に祭祀や饗宴儀礼に用いられる酒(チチャ)の原料として大量消費されてきた[6]。インカ帝国では階段状の農地を建設しトウモロコシの大量栽培をおこなっていた。[7]



新世界(南北アメリカ大陸)内での伝播


起源地からメキシコ高地で多様化した後 → 「メキシコ西部・北部 → 北米南西部 → 北米東部 → カナダ」或いは「メキシコ南部・東部 → グアテマラ → カリブ諸島 → 南アメリカ低地 → アンデス高地」へと伝播したと考えられている[5]



旧世界への伝播


1492年、クリストファー・コロンブスがアメリカ大陸を発見した際、現地のカリブ人が栽培していたトウモロコシを持ち帰ったことでヨーロッパに伝わった。ほぼ即座に栽培が始まり、1500年にはセビリアにおいて栽培植物としての記録が残っている[8]。経緯は不明だが最初の大規模栽培はトルコ帝国から始まり、「トルコ小麦」と呼ばれた。目新しい植物であるトウモロコシは18世紀初頭まで十分の一税の対象となっておらず、粟と転換する形で急速に伝播した[9]


16世紀半ばには地中海沿岸一帯に広がり、16世紀末までにはイギリスや東ヨーロッパにも広がってヨーロッパ全土に栽培が拡大した。ヨーロッパにおいては当初は貧困層の食料として受け入れられ、それまでの穀物に比べて圧倒的に高い収穫率は「17世紀の危機」を迎えて増大していた人口圧力を緩和することになった[10]。また、大航海時代を迎えたヨーロッパ諸国の貿易船によってこの穀物は世界中にまたたくまに広がり、アフリカ大陸には16世紀に、アジアにも16世紀はじめに、そしてアジア東端の日本にも1579年に到達している。この伝播は急速なもので、1652年にアフリカ南端のケープタウンにオランダ東インド会社がケープ植民地を建設した際には、すでに現地のコイコイ人には陸路北から伝播したトウモロコシが広まっていた[11]


アフリカにおいては伝播はしたものの、19世紀にいたるまではソルガムなど在来の作物の栽培も多かった。しかし19世紀後半以降、鉱山労働者の食料などとしてトウモロコシの需要が増大し、また労働者たちは出稼ぎを終えて自らの村に戻ってきた後も慣れ親しんだトウモロコシの味を好むようになった。さらに、トウモロコシはソルガムよりも熟すのが早いため、従来の端境期においても収穫することができた[12]。このため、特に東アフリカや南部アフリカにおいてソルガムからトウモロコシへの転換が進んだ。しかしトウモロコシはソルガムに比べて高温や乾燥に弱かったため、サヘル地帯などの高温乾燥地帯では旧来の雑穀を駆逐するまでにはいたらなかった[13]



コロンブス以前のトウモロコシ


一般には前述のクリストファー・コロンブスによって旧世に持ち帰られ広まったとされているが、コロンブス以前に旧世界に存在し12世紀のアフリカ、13世紀のイベリア半島(スペイン・ポルトガル)で栽培されていたとする研究がある[14]
古代ポリネシア人が太平洋を超えてアメリカの産物や技術をアフリカに移動させており、その中にトウモロコシも含まれていたという説もある[15]



日本への伝播


日本への伝搬は3つの経路があるが、もっとも古い経路は南西経路と呼ばれるヨーロッパ人から伝えられた経路である。いくつかの説があるが、ド・カンドルは1573年から1591年頃(天正年間)にポルトガル人によって熱帯型のフリント種が長崎にもたらされたとしている。その後、阿蘇山麓や四国の山中、富士山麓など気候や水利の面で稲作に向かない地域に広がり、18世紀末には蝦夷地のモロラン(現在の室蘭市)に至っている[16]


1868年頃に、近代の育種法によって作られたアメリカの早生のデント種、フリント種が北海道に導入され、開拓使によって大規模な畑作が始まった。トウモロコシは生食、飼料として定着し、やがて東北、関東に広がった。この伝播経路を北海道経路と呼び、南西経路とともに日本への主な伝播経路となった[16]


第二次大戦後に、育苗会社や農業試験場が世界中の苗を取り寄せて作り出した交雑品種が広く導入される事例が増え、こういった導入経路は自在経路と呼ばれている[16]。1950年に開発された「ゴールデン・クロス・バンタム」が最初の例となった。



生産と流通






































2009年のトウモロコシ生産量上位10ヶ国

生産量 (t)

備考

アメリカ合衆国の旗 アメリカ
333,010,910

中華人民共和国の旗 中国
163,118,097

ブラジルの旗 ブラジル
51,232,447

メキシコの旗 メキシコ
20,202,600

インドネシアの旗 インドネシア
17,629,740

インドの旗 インド
17,300,000

フランスの旗 フランス
15,299,900

アルゼンチンの旗 アルゼンチン
13,121,380

南アフリカ共和国の旗 南アフリカ
12,050,000

ウクライナの旗 ウクライナ
10,486,300

 World
817,110,509
[A]
無印=公的数字, A = 総計 (公的、半公的、推計データを含む).[17]

トウモロコシの世界全体の生産量は、2009年に約8億1700万tで、うち米国が3億3000万t以上を生産し、4割程度を占め世界最大の生産国となっている。またアメリカは世界最大の輸出国でもあり、シェアは6割を超える。このため、アメリカの主要生産地帯の天候により世界の在庫量・価格が左右される。先物取引の対象ともされている。近年では、病虫害に強くなるように遺伝子組換えを行った品種が広がっている。トウモロコシは雑種強勢であり、これを利用したハイブリッド品種の開発によって収量が急増したが、一代雑種であるため栽培農家は収穫から翌年用の種を準備することができず、種は種苗会社から毎年購入しなければならない。これによって種苗会社は毎年巨大な収益を上げることができるようになり、アグリビジネスが巨大化していくきっかけとなった[18]


20世紀中頃になると、品種改良されたハイブリッド品種による収量増加は先進国から発展途上国へと広がっていった。いわゆる緑の革命である。これによりトウモロコシの生産はさらに増加したが、新品種開発は飼料用トウモロコシが中心であり、穀物として使用される主食用トウモロコシにおいてはさほど進まなかった。このため、トウモロコシを主食とするメキシコやアフリカ諸国においては、トウモロコシの生産性はさほど向上していない[19]。21世紀においては、収量の向上とともに後進国住民に蔓延するビタミンA不足に対応するためのハイブリッド品種が開発され、ナイジェリアなどへの投入が試みられている[20]


日本はトウモロコシのほとんどを輸入に依存している。農水省や総務、財務省などの統計上の分類ではトウモロコシとは穀類のことであり、そのほとんどは飼料として、一部が澱粉や油脂原料として加工されるものである。その量は年間約1600万tで、これは日本の米の年間生産量の約2倍である。日本は世界最大のトウモロコシ輸入国であり、その輸入量の9割をアメリカに依存している。


また、日本国内で消費される75%は家畜の飼料用として使用されている。飼料用としては「青刈りとうもろこし」が国内の酪農家などで生産されており、年間450 - 500万t程の収量があるが、そのほとんどは自家消費され「流通」していないので統計上自給率は0.0%となる。一方未成熟状態で収穫する甘味種で一般的に小売され家庭や飲食店で消費されるものは統計上「スイートコーン」と呼び、野菜類に分類される。年間国内生産量25 - 30万tに対し輸入量は2000t前後で推移しており、こちらの自給率は99.9 - 100%となる。平成22年度のスイートコーン国内総生産量は234700tであり、都道府県別にみると最も生産が多かったのは北海道で107000tにのぼり、国内総生産量の約40%を占めている。次いで生産量が多いのは千葉県の16900t、茨城県の14500t、群馬県の10400t、長野県の9400tの順となっている[21]


国内で生産されているものは、缶詰めやそのまま食用にされるものがある。遺伝子組換えトウモロコシは、スーパーなどで一般的に市販されている食品に含まれる、植物性油脂、異性化液糖、アルコール、香料、デンプン、果糖などの原料として日本国内で流通している。(表示義務はない)



消費




食用としてのひとりあたりトウモロコシ年間消費量 : ██ 年間100kg以上 ██年間99kgから50kg ██ 年間49kgから19kg ██ 年間18kgから6kg ██ 年間5kg以下


2007年度のトウモロコシの世界消費は、家畜の飼料用が64%で最も多く、ついでコーンスターチ製造などに用いられる工業用が32%を占め、直接の食用はわずか4%にすぎない[22]。トウモロコシの直接食用としての消費量は、上図のように国によって大きく偏りがある。アメリカや中国のように、大生産国でありながらあまり食用に用いない国も多い。最も食用としての消費が大きいのは、トウモロコシから作るトルティーヤを常食とするメキシコや、パップ、サザやウガリといったトウモロコシ粉から作る食品を主食とするアフリカ東部から南部にかけての地域である(右図参照)。


なお、上記のように主食用トウモロコシと飼料用・工業用トウモロコシとは品種が違うため、飼料用トウモロコシの消費を減らして主食用に転用することは一概に可能とも言えない。(主食用を飼料用や工業用に転用することはできる)。かつてケニアで大旱魃が起きた際、アメリカ合衆国がトウモロコシ粉の食料援助を行ったが、その粉がケニアでウガリなどにする食用の白トウモロコシではなく、ケニアでは食用に用いない黄色トウモロコシであったため、ケニア政府が援助をアメリカに突き返したこともあった[23]


近年、最大の生産国であるアメリカにおいてトウモロコシを原料とするバイオマスエタノールの需要が急速に増大し、エタノール用のトウモロコシ需要は1998年の1300万tから2007年には8100万tにまで急拡大した[24]。これによりトウモロコシの需要は拡大したが、一方で生産がそれに追いつかず、これまでの食用・飼料用の需要と食い合う形となったために価格が急騰し、2007年-2008年の世界食料価格危機を引き起こした原因のひとつとなったという説もある[25]



用途





茹でたトウモロコシと茹でる前のトウモロコシ




トルティーヤとハラミのステーキ




ミリミルを茹でて作る南部アフリカの主食のウガリ(パップ・サザ)



食用


トウモロコシの栽培化が行われたメソアメリカでは、トウモロコシは古来重要な主食作物であった。乾燥した種子は石灰を加えた水で煮てアルカリ処理してからすり潰し、マサという一種のパン生地に加工して、各種の調理に用いられた。代表的なものが、薄く延ばして焼いたメキシコのトルティーヤである。このアルカリ処理は、現在ではニシュタマリゼーションと呼ばれている。南米のアンデス地域では、アルカリ処理せずに粒のまま煮て食べることが多いが、この地域での主食作物はジャガイモなどの各種芋類がより重要で、トウモロコシは先述したような煮て食べる以外に、発芽させたものを煮て糖化させ、さらに発酵させてチチャという酒にすることが多い[30]


古くから小麦、雑穀などを製粉して利用してきたヨーロッパやアジア、アフリカなどにトウモロコシが導入されると、やはり製粉して調理されるようになった。米国のコーンブレッドのように水でこねて焼くもの、イタリアのポレンタや東欧のママリガ、東アフリカのウガリやンシマなどのように煮立った湯の中に入れて煮ながらこねあげ、粥や固形状にするもの、中国のウォートウ(窩頭)のように蒸しパン状にするものなどがある。


現代の日本ではこうした主食としての利用はあまりなじみがないが、高度経済成長以前には、山梨県の富士北麓地方など[31]米の収穫量の少ない寒冷地や山間地では、硬粒種のトウモロコシの完熟粒を粒のまま、あるいは粗挽きにしたものを煮て粥にしたり、石臼で製粉して利用していた地域も少なくなかった。


未熟な穂は、焼いたり茹でたりすることで野菜として利用される。こうした用途には甘味種が供されることが多い。野菜として少々特殊なものにベビーコーン(ヤングコーン)がある。これは生食用甘味種の2番目雌穂を若どりして茹でたもので、サラダや煮込み料理などに用いられる。さらに特殊なものとして、メキシコではクロボキン類の一種であるトウモロコシ黒穂病菌(Ustilago maydis)に感染した穂を「ウイトラコチェ(Huitlacoche)」と呼んで食用とし、高級食材となっている。


そのほか、食材としての利用は多岐にわたり、コーンスープ(西洋料理のコーンポタージュ・中華料理の玉米羹・粟米羹)、バターコーン、ポップコーン、 コーンフレークなどにする。またコーンパフとしてスナック菓子の原料としても多く用いられている。南アフリカを中心とした南部アフリカではトウモロコシの粉を乾燥させたミリミル(mielie meal)(英語版)を、水や湯で溶かしてから、煮たパップ(pap)(英語版)という白いマッシュポテトのような、餅と粥の間の食感のものが主として黒人層での主食である。パップはトウモロコシの成分が濃縮しており、7割以上が糖質のため、これらの地域の肥満の原因の一つでもある。若干発酵させたものはサワーパップと呼ばれる。


ビールやウイスキー(主にグレーン・ウイスキーやバーボン、アメリカン・ウイスキー、テネシー・ウイスキー)など、アルコール飲料の原料ともなる。
韓国では、一般的にコーン茶が飲まれている。[32]


日本での生食については近年に至るまで、非常に新鮮な場合に稀に食べることができるという状況であって、それも人が食べて大変おいしいとされる味を出すに至る品種はなかった。しかし、1990年代後半に現れたパイオニアエコサイエンスの味来(みらい)は糖度が当時の平均的なメロンと同じ12度と同等かそれ以上になる品種もある。


トウモロコシの種実には、体内で合成できない必須アミノ酸のひとつトリプトファンが少ない。そのため、古来よりトウモロコシを主食とする地域の南アメリカ、米国南部、ヨーロッパの山間地、アフリカの一部などでは、トリプトファンから体内で合成されるビタミンB群のひとつナイアシンの欠乏症であるペラグラ(pellagra、俗にイタリア癩病)にかかりやすく、現在でもこれが続いている地域がある。メソアメリカでは、古来より前述のアルカリ処理を行うことで欠乏症を防いでいたとされる。



食用外



果実(種子・胚芽)


トウモロコシの実は、人間の食用としての他、畜産業での飼料として大量に消費されている。そのほか、デンプン(コーンスターチ)や、サラダオイルなどに用いられるコーン油の供給源としても利用されている。2007年度には、家畜の飼料用が世界総消費の64%、コーンスターチ製造やコーン油などに用いられる工業用が32%を占めた。また、鯉や黒鯛等を釣る釣り餌としての需要もある。


トウモロコシからは効率よく純度の高いデンプンが得られるため、工業作物としても重要な位置を占める。胚乳から得られるデンプンは製紙や糊などに使用される他、発酵によって糖やエタノールなど、様々な化学物質へ転化されている。こうして作られるコーンシロップは甘味料として重要である。近年では環境問題や持続的社会への関心から、生分解性プラスチックであるポリ乳酸や、バイオマスエタノールとして自動車燃料などへの用途も広がりつつある。


また、アメリカ合衆国では、飼料用のトウモロコシの実を燃料にする暖房用ペレットストーブが、コーンストーブ(英語版)と呼ばれて製造販売されている。


特にアメリカでは、バイオマスエタノールの原料として注目されて価格が急騰し、2008年にはアメリカ国内需要の3割を占めるようになり、大豆からの転作も進んでいるが、大豆や小麦に比べて成長に水を消費するため、一部の地域で水資源の不足が問題になりつつある[33]。また、エタノール相場とトウモロコシ相場のミスマッチや輸送供給のためのインフラの不整備によって起こる採算の悪化や[33]、エタノールに対応する機種が少ないことなどからバイオマスエタノール用の需要が伸び悩み、供給過剰によって生産されたエタノールの価格がガソリン価格の暴騰にもかかわらず横ばいを続けているなどの問題もある[34]





実を取ったあとの軸(コブ)は、合成樹脂材料のフルフラールやフルフリルアルコール、甘味料のキシリトールなどの製造原料となる。粉砕した粉はコブミールと呼び、キノコの培地[35]、建材原料、研磨材などにも利用されている。


芯が柔らかく円筒形に加工しやすいことから、喫煙具(コーンパイプ)として用いられる[36]。第二次世界大戦戦後処理で連合国軍最高司令官総司令部総司令官の任についたダグラス・マッカーサーの写真でしばしばコーンパイプを手にした姿を見ることができる。現在のコーンパイプは、1946年に芯を使うことを目的として開発されたコーンパイプ用の品種を材料にして作られている[36]



茎・葉




イネ科の植物に言えることであるが、トウモロコシも茎や葉は堆肥の材料に適している。抜いた後放置し、枯れたものを裁断して土にすき込み、肥料として利用することもできる。


種子が硬く色彩の美しいものは包葉を取り除くかバナナ皮のように剥いて乾燥し、観賞用とする。取り除いた包葉も繊維、あるいは布の代用とされることがある(包葉を使ったバスケットなど)。



花柱




とうもろこしのひげ


めしべの花柱(ひげ)は、南蛮毛(なんばんもう、なんばんげ)という生薬で利尿作用がある。この利尿作用は、南蛮毛に含まれるカリウム塩による。南蛮毛は、初版の日本薬局方に収載されていた利尿薬「酢酸カリウム」の代用として考え出された[37]



名称


日本語で標準的に用いられている呼称の「トウモロコシ」という名称は、トウは中国の国家唐に、モロコシは、唐土(もろこし)から伝来した植物の「モロコシ」に由来する。関西などの方言でいう「なんば」は南蛮黍(なんばんきび)の略称であり、高麗(こうらい)または高麗黍と呼ぶ地域もあるが、これらはいずれも外来植物であることを言い表している。これはヨーロッパにおいても同じ状況であり、フランスでは「トルココムギ」、トスカーナでは「シシリーコーン」、シチリア(シシリー)では「インディアンコーン」と呼ばれるなど、おおまかに「外国の穀物」という意味で共通する各種名称で呼ばれていた[8]


『日本方言大辞典』[要文献特定詳細情報][要ページ番号]には267種もの呼び方が載っており、主な呼び方には下記のものがある。


  • あぶりき - 福井県大野郡

  • いぼきび - 鹿児島県甑島]

  • うらんだふいん - 沖縄県竹富島(オランダのモロコシの意)[38]

  • かしきび - 新潟県中越地方、佐渡島など

  • きび - 長野県南部、鳥取県、高知県など

  • きみ - 北海道南部、青森県、岩手県など

  • とっきみ - 秋田県

  • ときび - 秋田県

  • ぎょく - 千葉県の一部

  • ぐしんとーじん - 沖縄本島南部など

  • こうらい - 岐阜県の一部、福井県の一部、三重県の一部、滋賀県の一部

  • こうらいきび - 愛知県尾張、岐阜県

  • こーりゃん - 香川県大川郡

  • さつまきび - 岡山県備前

  • さんかく - 熊本県の一部

  • せーたかきび - 新潟県の一部、和歌山県日高郡

  • たかきび - 鹿児島県種子島

  • とうきび・トーキビ - 北海道、山形県北部、石川県、福井県、香川県、愛媛県、山口県西部、九州、群馬県、埼玉県、愛知県奥三河地方など
    (昭和前半期[いつ?]まではこの「とうきび」が全国で一般に使われていた。)

  • とうきみ - 北海道南部(渡島地方)、山形県南部、福島県西部、群馬県北部など

  • とうたかきび - 香川県高見島

  • とうとこ - 島根県北部など

  • とうなわ - 岐阜県、富山県

  • とうまめ - 新潟県上越地方、長野県の一部など

  • とうみぎ - 宮城県、福島県、栃木県、茨城県など

  • とうむぎ - 栃木県南部

  • とうもろこし - 関東地方、沖縄県、島根県東部など

  • とっきび - 山形県・秋田県の一部

  • なきぎん - 鳥取県の一部

  • なんば - 近畿地方、三重県伊賀、岡山県、徳島県など

  • なんばと - 愛知県三河

  • なんばん・なんばんきび - 愛知県東部、京都府北部、山口県東部など

  • はちぼく - 三重県伊勢、岐阜県の一部、滋賀県の一部

  • ふくろきび - 長野県の一部、和歌山県の一部

  • まごじょ - 宮崎県の一部

  • まめきび - 新潟県の一部、岐阜県岐阜市、長崎県の一部など

  • まるきび - 岐阜県の一部

  • まんまん - 広島県、島根県南部など

  • もろこし - 長野県、山梨県など

  • やまととーんちん - 沖縄県首里(大和唐黍の意)

  • 嫁女黍(よめじょきび) - 広辞苑に記載されている異称


脚注



注釈




  1. ^ 日本語名は英名の誤読(最後の e は発音しないと考えた)か。ナワトル語: teōcintli > スペイン語: teosinte > 英語: teosinte (ティオシンテイ、ティオシンティー) > 日本語: テオシント。[要出典]



出典



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参考文献


  • 榎本裕洋、安部直樹 『絵でみる食糧ビジネスのしくみ』 柴田明夫監修、日本能率協会マネジメントセンター〈絵でみるシリーズ〉、2008年8月。
    ISBN 978-4-8207-4525-9。

  • 『ラテン・アメリカを知る事典』 大貫良夫ほか監修、平凡社、1999年12月10日、新訂増補版第1刷。
    ISBN 978-4-582-12625-9。

  • 貝沼圭二、中久喜輝夫、大坪研一 『トウモロコシの科学』 朝倉書店〈シリーズ《食品の科学》〉、2009年2月。
    ISBN 978-4-254-43074-5。

  • 北川勝彦、高橋基樹 『アフリカ経済論』 ミネルヴァ書房〈現代世界経済叢書 8〉、2004年11月25日。
    ISBN 978-4-623-04160-2。

  • 『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典 2 主要食物 : 栽培作物と飼養動物』 Kiple, Kenneth F. ; Ornelas, Kriemhild Coneè編、石毛直道、三輪睿太郎監訳、朝倉書店、2004年9月10日、第2版第1刷。
    ISBN 978-4-254-43532-0。

  • トゥーサン=サマ, マグロンヌ 『世界食物百科 - 起源・歴史・文化・料理・シンボル』 玉村豊男訳、原書房、1998年3月。
    ISBN 978-4-562-03053-8。

  • 平野克己 『図説アフリカ経済』 日本評論社、2002年4月。
    ISBN 978-4-535-55230-2。

  • 星川清親 『新編 食用作物』 養賢堂、1985年5月10日、訂正第5版。
    978-4-8425-0217-5、
    NCID BN0352695X。

  • 松本仁一 『アフリカを食べる』 朝日新聞社〈朝日文庫〉、1998年8月1日、第1刷。
    ISBN 978-4-02-261237-3。

  • 南直人 『ヨーロッパの舌はどう変わったか - 十九世紀食卓革命』 講談社〈講談社選書メチエ〉、1998年2月10日、第1刷。
    ISBN 978-4-06-258123-3。

  • 本山荻舟 『飲食事典』 平凡社、1958年12月25日。全国書誌番号:
    59001337、
    NCID BN01765836。


関連資料


  • 田中正武 「トウモロコシの祖先種探索行とその起原をめぐって」、『化学と生物』 第13巻第6号、1975年、pp. 383-391。


関連項目






  • 夏野菜

  • ポップコーン

  • トランスポゾン

  • バイオマスエタノール

  • メソアメリカの編年


外部リンク


  • 清水達也 「第1章 食料危機とトウモロコシの需給 (PDF) 」、『「食料危機と途上国におけるトウモロコシの需要と供給」調査報告書』 清水達也編、アジア経済研究所、2010年


  • トウモロコシの種類、製品の特性と用途 - 独立行政法人農畜産業振興機構


  • とうもろこし(玉蜀黍) - 栄養コラム「なでしこ通信」(兵庫栄養調理製菓専門学校)


  • 「平成26年度トウモロコシ生育等実態調査」の結果について - 農林水産省(2015年6月18日付プレスリリース)


  • テオシント - トウモロコシの原種を見てみよう! - 筑波実験植物園(国立科学博物館)


  • 米国のトウモロコシ需要増と米・中・日穀物貿易への影響 - トウモロコシエタノール生産促進を中心に (PDF) - 『農林金融』2006年8月(農林中金総合研究所)


  • トウモロコシの価格高騰などに関する雑誌記事 - レファレンス協同データベース








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