サスペンション





サスペンション(英: suspension)または懸架装置(けんかそうち)とは、主に車両において、路面の凹凸を車体に伝えない緩衝装置としての機能と、車輪、車軸の位置決め、車輪を路面に対して押さえつける機能を持つことで、乗り心地や操縦安定性などを向上させる機構である。また、その他の機械類における、防振機構(インシュレーター)のことを指す場合もある。




目次





  • 1 自動車のサスペンション

    • 1.1 方式

      • 1.1.1 車軸懸架方式


      • 1.1.2 独立懸架方式


      • 1.1.3 トーションビーム懸架方式



    • 1.2 車軸以外のサスペンション


    • 1.3 戦車のサスペンション



  • 2 オートバイのサスペンション

    • 2.1 前輪


    • 2.2 後輪



  • 3 鉄道車両のサスペンション


  • 4 自転車のサスペンション


  • 5 家具のサスペンション


  • 6 建築物のサスペンション


  • 7 脚注


  • 8 関連項目


  • 9 外部リンク




自動車のサスペンション




コイルオーバーの例


黎明期以来さまざまな方式のサスペンションが考案され実用化されているが、一般的な自動車のサスペンションは、基本的構成として車軸の位置決めを行うサスペンションアーム、車重を支えて衝撃を吸収するスプリング、スプリングの振動を減衰するショックアブソーバー(ダンパー)で構成される。欧米ではスプリングとショックアブソーバーが一体となった部品をコイルオーバー (英: Coilover) と称することもある。


乗用車では、低コストなストラット式サスペンション(マクファーソン・ストラット式)が最も多く用いられている。乗り心地の向上やタイヤの接地条件やクルマの姿勢(ロールセンターやアンチダイブ、アンチスクワットなど)を細かくコントロールする目的で、ジオメトリー自由度の大きいダブルウィッシュボーン式や、さらなる安定性を得るためにマルチリンク式なども多く用いられている。


サスペンションの特性は同じ方式でも一様ではなく、使われる部品の固さや寸法に大きく依存する。一般に「サスペンションが硬い」と表現されるものは、車重に比してばね定数が高い場合やダンパーの減衰力が高い場合が多い。サスペンションが柔らかい方が路面の凹凸による衝撃を吸収しやすく、乗り心地を重視する乗用車ではサスペンションが柔らかくされる傾向にあり、スポーツカーやレーシングカーなどの自動車では旋回時や加減速時の車体挙動を抑えるためにサスペンションは硬くされる傾向がある。俗に「サスペンションがへたる」と表現される現象は、ほとんどの場合はショックアブソーバーの減衰力が低下したり、サスペンションアームの軸部に用いられているブッシュの弾力性が失われたりすることで発生する。



方式


懸架方式は大きく分けて車軸懸架(リジッドアクスル・サスペンション)、独立懸架(インディペンデント・サスペンション)、可撓梁式(トーションビーム式サスペンション)に分類される。単純な緩衝機能に留まらず、外力に対して車両の姿勢を積極的に制御し、安定させるシステムとしてアクティブサスペンションやセミアクティブサスペンションがある。それに対し、旧来の懸架装置はパッシブサスペンションと呼ばれるようになった。



車軸懸架方式




I形ビームのリーフリジッド式


車軸懸架方式は左右の車輪を車軸(アクスル)で連結したサスペンション形式で、馬車時代から続く長い歴史を持つ。ドライブシャフトがアクスルハウジング(アクスルチューブ)に覆われており、ドライブシャフトに角度を持たせるための軸継手を必要としないため、構造が簡単で耐久性が高い。左右の車輪が常に同軸上に保たれているため、対地キャンバーの変化が少ない。ホイールトラベル(ストローク)を大きく設計しやすいため、起伏の大きな路面状況での車輪の接地を保ちやすい。反面、バネ下重量が重くなる傾向にあり、速度が高くなると路面追従性や乗り心地が悪くなる。また、ロールセンターが高くなりがちで、旋回による車体のローリングが大きいなどの短所がある。


大型自動車、商用車、クロスカントリー車での採用例が多い。また、排気量1500 cc以下程度の大きさで前輪駆動の乗用車でも、リヤサスペンションに多く採用されている。


車軸懸架(固定車軸懸架式)を細分化すると次のような方式に分けられる。


  • リンク式サスペンション

  • リーフ式サスペンション

  • ド・ディオン式サスペンション


独立懸架方式





ストラット式サスペンション


左右の車輪が独立して動作するサスペンション形式で、バネ下重量が軽く、乗り心地や路面追従性に優れる。デファレンシャルが車軸とともにバネ下にある固定車軸に比べ、フレームや車室の床を低くすることができ、デファレンシャルがエンジンの直下に配置される車種ではエンジン搭載位置も低くすることができる。リンク機構を用いることで、ストローク時のジオメトリーを操縦特性や安定性が向上するように設計することが可能である。一方で、部品点数が多く、製造コストや整備コストが高くなりやすい。サスペンションアームの寸法の制約により、ストロークが短くなる傾向にある。


スポーツカーやレーシングカーに留まらず、現在では、一般的な乗用車や中型以下の貨物車のほか、一部の観光バスではフロントサスペンションに独立懸架が採用されている。乗用車では、リア・サスペンションにも独立懸架が多く用いられ、インディペンデント・リア・サスペンション (Independent Rear Suspention) の頭文字をとってIRSとも呼ばれる。


独立懸架方式を細分化すると次のような方式に分けられる。


  • 一軸スイングアーム式
    • スイングアクスル式サスペンション

    • リーディングアーム式サスペンション

    • トレーリングアーム式サスペンション


    • セミトレーリングアーム式サスペンション


  • 二軸スイングアーム式
    • ダブルウィッシュボーン式サスペンション

    • ダブルトレーリングアーム式サスペンション


  • マルチリンク式サスペンション


  • セントラルアーム式サスペンション

  • ストラット式サスペンション


トーションビーム懸架方式



トーションビーム式サスペンションは、左右の車輪がねじれ(トーション)を許容する梁(ビーム)で結ばれている構造で、独立懸架ほどではないが、車軸懸架よりも左右の車輪に自由度が与えられている。前輪駆動(FF)車の後輪やトレーラーなどに採用されている。特にFFが多いコンパクトカーや軽自動車の後輪用では主流となっている。


トーションビーム式を細分化すると次のような方式に分けられる。


  • アクスルビーム式

  • ピボットビーム式

  • カップルドビーム式


車軸以外のサスペンション


キャブオーバー型の大型貨物自動車のなかには、車軸のサスペンション以外にフレームとキャビンの間に緩衝装置を設けるキャブサスペンションを持つ物が多い。日本製トラックでは1981年(昭和56年)に日野自動車製の車両で初めて導入された[1]。キャブサスペンションはコイルばねや空気バネ、懸濁液方式などが用いられており、車軸のサスペンションの耐荷重性能強化と乗り心地の向上という相反する要素を両立するために採用されている。エンジン出力や積載量の割にホイールベースが短い牽引自動車のトラクターでは、キャブのピッチングを抑えることができる。


また、トラック、バス、四輪駆動車、建設機械、農業機械などでは、運転席が緩衝装置で支持されているサスペンションシートが採用されている物もある。ドライバーの任意でばねのプリロードを調整でき、不要な場合はロック(固定)できる。



戦車のサスペンション


戦車が開発された当時はサスペンションは存在しないか、ないに等しい状況であったが、戦車を取り巻く環境が変化し、サスペンションが着目されるようになった。歴史上存在する戦車に取り入れられたサスペンションとして、リーフスプリング、コイルスプリング、クリスティー式、トーションバー式、油気圧式などがある。



オートバイのサスペンション





オートバイのサスペンション(ドゥカティ・ムルティストラーダの後輪側サスペンションユニット)


オートバイに使われるサスペンションは、そのほとんどの形式ではスプリングとショックアブソーバー(ダンパー)が一体のサスペンションユニット(クッションユニット)となっている。自動車と比べると、オートバイではサスペンションスプリングの伸縮による車体のピッチングが大きく、これによる操縦特性への影響が大きい。オートバイでは前輪側と後輪側で異なるサスペンション形式を採用する場合がほとんどである。



前輪



オートバイの前輪側サスペンションは、後輪側よりも早い時期から取り入れられていた。歴史的にはガーダーフォークアールズフォークなどの形式も広く用いられていたが、現在は多くの車種でテレスコピックフォークと呼ばれる形式が採用されている。テレスコピックフォークは、単純な構造で部品点数を少なく作ることができるが、フォークに対して直角方向の荷重に弱いほか、制動時などにフォークのストロークが大きくなる(前のめりになる)とキャスター角の変化が大きくなる短所を持つ。こうした短所を克服するために、ボトムリンク式テレレバー式などの形式も採用されている。



後輪



初期のオートバイには後輪側に緩衝装置が無い車種も多く、代わりにサドルにばねが付けられていたものも多かった。こうした車両の構造はリジッドフレームと呼ばれている。現在では、ほとんどの車種でスイングアーム式が採用されているが、かつてはプランジャー式やハブクッション式といった形式も存在した。



鉄道車両のサスペンション



鉄道車両でも軌条(レール)への追従性、車両の安定性、乗り心地や静粛性の向上を目的としてサスペンションが組み込まれているが、自動車とは異なり、舵取り装置が不要で、前後どちらの向きにも同じ速度で運転されることから、自動車とは構造が異なる。また、ゴムタイヤ方式や超低床電車などを除くと、左右の車輪は車軸と一体の輪軸を採用していて、各軸の軸受けに懸架装置がないと軌道の狂いに対応できず、速度を上げた場合や輪重の不均等が起こった際には脱線につながる。トロッコなどで懸架装置の無いものが見られるが、この場合は左右輪が独立して回転できるようにして車輪がレールへ乗り上げることを防いでいる。


鉄道の黎明期には機関車以外の客車や貨車は二軸車であり、車軸の支持方式は台枠に固定された軸箱守(ペデスタル)を位置決めに用い、緩衝に重ね板ばねを用いていた。これは現在でも二軸貨車などに用いられている。その後、車両の大型化と高速化が進むと固定車軸では対応できなくなり、ボギー台車が生まれた。レールに対する車輪の追従性は軸箱を支持する軸ばねが担い、乗り心地に関しては台車と車体の間に備わる枕バネが受け持つ分業となった。新幹線では高速走行時の車両の安定化を図るため、500系 にアクティブサスペンションを取り入れて、300 km/hでの運行を実現した。



自転車のサスペンション



自転車においては、起伏の激しい路面を走るマウンテンバイクやダウンヒル競技用のダウンヒルバイク(en:Downhill bike)にサスペンションを装備するモデルが多く、一部のクロスバイクでも装備されている。前後輪ともにサスペンションをもつフレーム構成をフルサスペンション、前輪のみにもつものをハードテイルと呼ぶ。特に高速で起伏の激しい斜面を下るダウンヒルバイクではサスペンションストロークを大きくとったフルサスペンションである場合が多い。一方、サスペンション機構を付加することで車体重量が増え、構成部品にかかる費用が増加することから、安価な軽快車や、軽量性が求められるロードレーサーなどではサスペンションを装備しないものが専らである。



家具のサスペンション


主に事務用の椅子において、人の身体が触れる部分の表層にクッション性と通気性を兼ね備える目的で弾性樹脂でできた網目状の布を用いるものがある。こうした布をサスペンションファブリックと呼び、この布を用いた椅子はSFチェアやメッシュチェアの名で呼ばれる。SFチェアの多くは、鋼もしくは高強度の樹脂を成形した剛性の高いフレームにサスペンションファブリックを張った、簡素な構造を持つ。



建築物のサスペンション


建築物の外装材の一種であるカーテンウォールは幅2 m内外、高さ4 - 5 m程度の大判のガラスが用いられる。このガラスには風圧に耐え、人や物が衝突して容易に破損しない耐衝撃性が求められるため、20 mm程度の厚みになり、1枚当たりのガラス重量は数百キログラムになる。一般的なガラス窓ではガラスの重量はサッシ下辺で支えられるが、カーテンウォール用の大判ガラスの重量をサッシ下辺のみで支持することは施工性や費用面で容易ではないため、ガラス上端を吊り金物で挟み、上部構造体の梁やスラブに固定してガラスの重量を分担することで問題を解決している。こうした建築工法をサスペンション工法と呼ぶ。



脚注


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  1. ^ “トラック豆知識2”. 栃木日野自動車株式会社. 2005年3月16日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2010年6月20日閲覧。



関連項目


  • サスペンションジオメトリー

  • ホイール・アライメント

  • スタビライザー

  • アクティブサスペンション

  • セミアクティブサスペンション

  • スカイフック理論

  • ばね


外部リンク




  • ÖHLINS(高性能高精度サスペンションメーカー)

  • ボーズ・サスペンション・システム

  • 特許庁ホームページ-自動車・二輪車の ブレーキ・サスペンション部品


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