単位取得満期退学


単位取得満期退学(たんいしゅとくまんきたいがく)とは、日本の人文・社会科学系の大学院博士課程において、課程博士号をほとんど付与しない慣行が戦後長らくあったことを前提に、課程博士号に準じるものとして、一般的に使われている学歴的表記である。「○○大学大学院○○研究科博士課程単位取得満期退学」などと表記する。「単位取得退学」の用例も多いほか、単に「満期退学」と表記する場合もある。




目次





  • 1 概要


  • 2 脚注


  • 3 参考文献


  • 4 関連項目




概要



戦後、新制大学と共に成立した課程制大学院においては、博士号は研究者としての出発点に立ちうる能力を有する学位と位置付けられていた[1]が、理科系の大学院では早くから課程博士号を付与していたのに対し、文科系、特に人文科学系の大学院では、博士号は、その分野の碩学泰斗の学者に、そのライフワークたる業績に対し、論文博士号として付与されるべきものとの共通理解が長く存続し、課程博士号はほとんど付与されなかった。例えば、東京大学人文科学研究科では、1990年(平成2年)までは課程博士号の授与件数が毎年0 - 2件であった[2]。これに対し、修士号については課程修了に伴い付与されるのが通例であった[3]




このため、大学院博士課程に正規の年限以上在籍し、論文審査以外の単位取得も終え、課程博士号に準じた学歴を有していることを表示するため、「単位取得満期退学」又は「単位取得退学」の表記を学歴として記載する慣行が広く行われてきた。



この表記に制度的な根拠はないが、大学院で指導できる教員の資格を審査するにあたって必要となることが多く、大学院教員の公募に応じる者は履歴書に大学院の修了区分を厳密に区別して書くことが一般的に求められている[4]ほか、大学設置等に際し文部科学省の大学設置・学校法人審議会に提出する教員個人の履歴書においても、「単位取得後退学」の表記をするように求められている[5]




しかし、こうした、課程博士号を付与せず、「単位取得満期退学」等の表記を求める慣行は、研究者の海外交流にあたり、正式な博士号がないことでの支障となる一方、日本の大学の大学院が海外からの留学生を幅広く受け入れようとするに際し、博士号が取得しづらいという点で障壁となるとして、批判を浴びることとなり、1991年(平成3年)の設置基準大綱化以降は人文科学系の大学院においても課程博士号を付与するようになってきた[6][7]。しかし、大学が文部科学省高等教育局に宛てて行う報告では課程博士を甲、論文博士を乙としてそれぞれ通し番号を付ける慣行が今でもあり、完全な格差の解消には至っていない。




脚注



  1. ^ 「博士課程は、専攻分野について、自立して研究活動を行うに必要な高度の研究能力(中略)を養うことを目的とする。」(大学院設置基準第4条第1項(旧規定))


  2. ^ 黒羽亮一「日本における1990年代の大学改革」p11


  3. ^ 中央教育審議会答申「新時代の大学院教育」参考資料17「博士学位授与数の推移と授与率」


  4. ^ 例えば、東京大学の研究者・教員公募における統一履歴書フォーマットの記入要領では、大学院の修了区分として、修了、退学、単位取得退学等から該当するものを記入するように指示している[1]


  5. ^ 「大学の設置等に係る提出書類の作成の手引(平成28年度改訂版)」24 教員個人調書 履歴書(5)「学歴」の欄について①(p125)


  6. ^ 黒羽亮一「日本における1990年代の大学改革」p11


  7. ^ 中央教育審議会答申「新時代の大学院教育」参考資料17「博士学位授与数の推移と授与率」


参考文献



  • 中央教育審議会 平成17年9月5日答申「新時代の大学院教育 ―国際的に魅力のある大学院教育の構築に向けて―」第2章新時代の大学院教育の展開方策 1大学院教育の実質化(教育の課程の組織的展開の強化)のための方策 (1)課程制大学院制度の趣旨に沿った教育の課程と研究指導の確立 ①円滑な博士の学位授与の促進

  • 黒羽亮一「日本における1990年代の大学改革」、『学位研究』第3号( 学位授与機構)、平成7年


関連項目


  • 大学院

  • 学位

  • 博士

  • 修士

  • 学歴

  • 退学


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