リング (格闘技)
格闘技におけるリングとは、ボクシングなどで試合場として使用される、ロープで囲まれた場所のこと。通常、試合で用いられるものは正方形で、1メートルほどの高さの架台にキャンバスマットを張ったものを床面とし、四隅に鉄柱のコーナーポストを設置して3-4本のロープで周囲を取り囲んでいる。
試合中、原則的には対戦する選手とメインレフェリー以外は、リング内に立ち入ることが許されない。また、レスリングやサンボで使用する試合場もリングと呼ぶことがある。こちらはロープがなく、円形である。
目次
1 ボクシングのリング
2 プロレスのリング
2.1 変形リング
3 総合格闘技のリング
4 立ち技系格闘技のリング
5 『キャンバス』と『マット』
6 関連項目
7 脚注
ボクシングのリング
古代のボクシングは主にコロシアムなどで行われ、ロープで囲まれたリングは使用されなかった。
時代が下って近代に入ると、ボクシングは見世物や賭けの対象として広場などで行われ、相撲の土俵の基となった「人方屋」[1]と同様に、観客が選手を囲むように輪になって観戦したのが、リングの起源でありまた語源ともされている[2]。ジャック・ブロートン(Jack Broughton)が初の7章のルールブック「ブロートン・コード」(Broughton’s Rule)を、1743年発表した。その中に、リング(直径25フィートの円形、硬い土の上)について決められていた。やがて地面に直接4本の杭を立ててロープを張るようになったが、形は四角くなってもこれをそのままリングと呼び習わした。1865年成立の「クインズベリー・ルール」ではリングの1辺が24フィート(7メートル32センチメートル)の四角形と規定された。
1912年の英国では円形のリングが使われていた。米国で円形リングが最初に登場したのは1944年5月26日、サンフランシスコの造船所で、ロープにあたる部分はアルミ管で作られ、ベルベットの厚地で覆われており、フレッド・アポストリがエキシビションマッチを行った[3]。
現代では、主に鉄製の柱4本の間に3-4本のロープを張り、鉄骨製の土台の上に丈夫な板を並べ、その上にクッションを敷いてキャンバスで覆い、リングとしている。形は正方形でなくてはならない。更に柱の間には下部にワイヤーロープを張っている。2005年現在のボクシングルールでは、ロープの内側のサイズが一辺18から24フィート(5.47から7.31メートル)の範囲内で、床面の高さは4フィート(1.22メートル)以内と定められている。サイズについての規定が曖昧であるため、特にアウトボクサーのような片方の選手に不利なサイズのリングが使用され物議を醸すことがある。ロープの太さは1インチ(2.54センチメートル)で4本を用い、最下段がフロアから18インチ(0.46メートル)、最上段が52インチ(1.32メートル)となっている。ロープの本数について以前は3本であったが、選手が落下して死傷するなどの事故を防止するため、4本に変更された。ロープを固定する金具(ターンバックル)が露出していると危険なため、リングの角にはコーナーマットと呼ばれるパッドをあてがうこととなっている。キャンバスについては、厚さ2.5インチ(約6.35センチ)以上のフェルト(圧縮材)もしくは畳、または同じ程度の柔らかい下敷を置くと定められている。また、リング上でロープの外側に当たる縁の部分を特にエプロンと呼称し、幅は2フィート(0.61メートル)と定められている。
通例はランキング上位の選手が位置する角を赤コーナー、その対角にある下位の選手が位置する角を青コーナーとし、残る角は中立のニュートラルコーナーと称する。リングの周りには階段が3つ設置され、赤コーナーには赤い階段。青コーナーには青の階段。そしてニュートラルコーナー2箇所のどちらか一方に白い階段がある。赤青の階段は選手やセコンド用、白い階段はレフェリーと医者用である。
プロレスのリング
プロレスにおいては1870年代にジム・オーエンズ(Jim Owens)がキャンバス・マットとした。1901年にサンフラシンスコでプロモーターが1辺18フィート(5.48m)四方のキャンバスマットを考案した。他の地域には1930年代に広まった。かつてボクシングの前座として興行が行われていたことから、ボクシング同様のリングが使用されている。しかしながらプロレスのリングにおいては、ロープの本数は現在でも3本が主流である。プロレスではタッグマッチや場外乱闘があるために、選手が試合中もリングを出入りすることが頻繁にあり、補助無しで出入りしやすい方がむしろ好ましいことと、ジャイアント馬場の「16文キック」に代表されるようなロープを利用した技が多数あり、ロープ本数が増えると間隔が狭くなって使いにくくなる技が存在するためである。例えば、ロープの間を抜けて場外の選手に飛び込み頭突きをする「トペ・スイシーダ」や、身体を水平にしてロープの間をくるりと回転しながらロープ際の選手にキックを放つ「619(シックス・ワン・ナイン)」等がその典型例である。
日本ではリングロープとして、ワイヤーロープにゴムのカバーをかぶせたものを使用しているが、海外では木綿や麻などのロープを使用している場合も多い。
デスマッチの試合形式によってはロープを外したり、ロープの代わりに有刺鉄線を使用したりする場合、ロープに蛍光灯を輪ゴムで括り付ける場合もある。事前にリングの大きさやロープの張りを良く確認しておかないと、試合中にアクシデントが起きるおそれが大きい。
日本のプロレスのリングは一辺6.0から6.4メートルのサイズが主流となっており、一辺5.5メートル前後が主流の欧米より若干大きいものが使われている。ただしDRAGON GATEのように、会場のサイズによってリングの大きさを変える団体も存在する。女子団体では、一辺5.5メートルのリングが主に使用されている。道場やスポーツバーなどを兼ねた常設会場に設置されているリングについては、もっと小さい場合もある。
ただし、アイスリボンでは道場兼常設会場ができる以前、市ヶ谷アイスボックスなどでの興行においてはリングの代わりにユニエバーの青いマットが使用されていた。当然ロープはなく、コーナーポストも鉄柱の替わりに脚立が使われた。このほか、埼玉プロレスや阿佐ヶ谷ロフトの阿佐ヶ谷プロレス、タイを拠点とする我闘雲舞など、資金面や会場サイズなどの都合でリングを使用しない興行もある。また、WWEやDRAGON GATEでは試合中リングが崩壊するアクシデントに見舞われ、後続の試合を残されたマットのみで行ったこともあった。DDTプロレスリングでは街角や野外でリングはおろかマットも使用しない興行も行われている。
団体によって大きく異なるが、床は木の板(4〜5センチメートルの厚み)で、その上にゴムシート(2センチメートルの厚み)、さらにその上にフェルト(2センチメートルの厚み)などを敷き最後にキャンバスを敷いている。新日本プロレスでは、2007年よりスポンジを追加したことが田口隆祐選手により公表されている[4]。一部インディー系団体の場合、キャンバスの下に体操用のマットを敷いてこれらの代用としている場合もある。さらに土台の骨組みをサスペンション構造とし、スプリングを利かせて反発を大きくしている団体もある。これらの組み合わせによって、豪快な投げ技で大怪我をしないようにしている。アメリカのROHでは、まるでトランポリンのようにリングの床面が振動で上下する。逆にヨーロッパやメキシコでは、サスペンション構造になっていないことが多い上に、クッションも薄いとされる。異種格闘技戦など特殊な事情がある時には板の上に直接キャンバスを貼ることがあり、このような硬いマットでは投げ技に対して受身を充分にとらないと非常に危険である。
リングを保有しない団体のために、リングの貸出および設営に関する業務を請け負う、「リング屋」と呼ばれる企業がある。
変形リング
通常の四角いリングの他に、六角形のリングが古くからメキシコで使われている。日本国内の興行で使用された例としては、2000年から2002年にかけて、闘龍門2000プロジェクト(T2P)の興行で使用されたものがある。六角形である以外は通常のプロレス用リングと特に変わる点はないが、その形状ゆえに3ウェイ戦に適しているという利点もある。2006年の時点では、メキシコのルチャリブレ団体AAA、アメリカのTNAがビッグマッチで六角形リングを使用している。また、異種格闘技戦でリングロープを撤去し、リングの周囲に継ぎ足しをして円形とした例も存在する。
全日本女子プロレスでは、「ツインリング」と呼ばれる二つのリングを並べてバトルロイヤルや同時シングルマッチを組み込んだ興行もあった。大日本プロレスでも川崎市体育館など規制が厳しい会場での興行でツインリングデスマッチ(または離して設置するダブルリング)を行う場合がある。WCWでは金網ツインリングデスマッチを行ったこともあった。2012年12月16日の大日本プロレス、DDTプロレスリング、KAIENTAI DOJOの三団体合同興行『天下三分の計』では三興行共にツインリングで行われ、大日とDDTはデスマッチやハードコアルールで、K-DOJOは片方のリングを升席として活用している。NEO女子プロレスとアイスリボンの合同興行ではNEOのリングとアイスのマットを並べたこともあった。
総合格闘技のリング
総合格闘技ではボクシングと同じ型のリングや金網が使われるが、団体によって微妙に差異がある。例えばPRIDEでは、選手の転落を防止する目的でロープを一本増やしたり、IVCでは同様の目的でリングの周りにネットが張ってあるなどである。また佐山聡(初代タイガーマスク)が総合格闘技「シューティング」(現・修斗)を考案した際、プロレスとの差別化のためにロープの代わりに鎖を張った八角形のリングを公開している。この八角形リングは、後にUFCのオクタゴン・ケージ(金網に囲まれた八角形の試合場)に影響を与えたとされる。しかし、プロ修斗公式ルールにおいては、ボクシングと同等のリングが採用されている。違いとしては、プロレスのリング程ではないが投げ技での大怪我防止のために薄い反発マットが敷いてある。
総合格闘技でのリングでのトラブルは多く、両者または片方がリング外にはみ出る、ロープを手でつかまれる(ほとんどの場合反則行為にあたる)、ロープ際でもつれてそのままの状態でリング中央に戻されるという不自然な行為が行われる等課題が多い。そもそも「リングは組み技格闘技を想定して考案、実施されたものではない」ので不自然さや問題が多いのは当然とも言える。その不自然さを解消する為に前述したオクタゴンやケージが海外を中心に増えているが、日本国内では土地の狭さ、経費の捻出、TVや一般からみてケージは残酷に見える等の点からリングの試合が多いのが現状である。
立ち技系格闘技のリング
ムエタイ、キックボクシング、K-1などの打撃系格闘技では、ボクシングと同じリングを採用している。ただし、金網を使った総合格闘技の興行で立ち技の試合が組まれる場合、金網が使用されることもある。
K-1を主催するFEGは、ヘビー級部門の「K-1 WORLD GP」においては一辺が約7.2mと、ボクシングの規定上限に近い大きなリングを採用している。しかし、ミドル級部門の「K-1 WORLD MAX」では、一片が約6.4mとサイズが小さくなっている。これは選手の体格がヘビー級に比べて小さくなるゆえに、打ち合いを促すためである。
タイで行われるムエタイでは、スタジアムによってリングの床が多少柔らかくなっているケースがある。これは選手が倒れた瞬間に頭部を床にぶつけても、その衝撃を和らげる為である。しかし、床が柔らかいということは、踏ん張りが利かないため、移動しにくくなったり、余計な力が脚にかかって疲れやすくなるなどの欠点もある。
『キャンバス』と『マット』
ボクシングを始めとした立ち技系格闘技界ではリングを『キャンバス』、プロレスや総合格闘技など寝技などがある格闘技のリングを『マット』と呼ぶことがある。例えば、試合に敗北した場合、ボクシングでは「キャンバスに沈む」と表現するのに対し、プロレスでは「マットに沈む」と表現する。また、日本ではプロレス業界のことを「マット界」と呼ぶ事もある。
関連項目
- 土俵
- リングアウト
脚注
^ 人方屋とは - 世界大百科事典、コトバンク、2014年3月29日閲覧。
^ Q&A リングは英語でring=輪なのに、何で四角いんですか? - 一般財団法人日本ボクシングコミッションHP.2014年3月29日閲覧。
^ Andre, Sam; Fleischer, Nat; Rafael, Don (2001-12). “The middleweights” (英語). An Illustrated History of Boxing (2001: 6th ed.). 米国・ニューヨーク市: Citadel Press. p. 234. ISBN 978-0-8065-2201-2.
^ 新日本プロレスリング公式サイト - 真壁が『プロレス・アカデミー』で熱血人生相談! 田口がジュニアを、小島が「子どもとプロレス」を語った!!(報告) [1]